トランプ:EUが「米国を貿易で利用している」と非難 ― 2025年05月25日 21:58
【概要】
アメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領が欧州連合(EU)からの輸入品に対し50%の関税を課すと発表したことに対し、EUの当局者および加盟国の代表から強い反発の声が上がっている。彼らは、このような威圧的手段は大西洋をまたぐ貿易交渉を危機に晒すものであると警告している。
トランプ大統領は5月24日(金)、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」において、EUが「米国を貿易で利用している」と非難し、「EUとの取引は非常に困難である」と述べた上で、「2025年6月1日よりEU製品に対して一律50%の関税を提案する」と表明した。
この関税の脅威は、EUと米国の貿易交渉が停滞している中で発せられたものであり、報道によれば、米国側はEUに対し一方的な譲歩を求めている一方、EU側は双方に利益をもたらす協定を目指しているとされている。
欧州委員会の貿易・経済安全保障担当委員マロシュ・シェフチョビチ氏はSNS「X」にて、EUは自らの利益を守る用意があると表明した。彼は、「二国間の貿易は脅しではなく相互尊重に基づくべきである」と強調し、「EUは交渉に真摯に取り組む用意がある」と述べた。
欧州議会国際貿易委員会の委員長であるベルント・ランゲ氏はSNS「Bluesky」にて、EU議員団が来週ワシントンを訪問し、EUの貿易政策に関する誤解を解くための説明を行うと投稿した。彼は、「もしトランプ氏が真に協力と交渉を望んでいるのであれば、EUは常に門戸を開いている。だが、彼が単に自らの要求を承認させたいだけであれば、それは誤った扉を叩いていることになる」と述べた。また、トランプ氏の「EUは米国を貿易で利用するために創設された」という主張も否定した。
アイルランドのミホル・マーティン首相は、トランプ氏の発表を「極めて遺憾である」と評し、このような高関税措置は「世界で最も活発な貿易関係の一つを著しく損なう」と警告した上で、世界市場にも混乱をもたらす可能性があると指摘した。
フランスの通商担当大臣ローラン・サン=マルタン氏も、トランプ氏の関税の脅しについて「交渉期間中において何の助けにもならない」と非難し、EUが対立の激化ではなく対話による解決を求めている立場を再確認した。彼はフランスのニュースチャンネルBFMTVの取材に対し、「EUは米国製品に高関税を課すことを望んではいないが、必要とあらば力の均衡を取り戻すための報復措置を講じる用意がある」と語った。
また、ドイツの経済・エネルギー大臣カタリーナ・ライヒェ氏は、「関税紛争に勝者は存在しない」と述べ、「関税は米国とEUの双方に等しく損害を与える」と警鐘を鳴らした。
【詳細】
1. トランプ大統領による関税発言の背景と内容
トランプ大統領は、自身が運営するSNS「トゥルース・ソーシャル」にて、EUが「米国を貿易で利用している」と主張し、「非常に扱いにくい交渉相手である」と非難した。そして、2025年6月1日よりEUからの輸入品に対して一律50%の関税を課すよう提案していると明言した。
この発言は、米国とEUの間で進められていた自由貿易協定に関する交渉が行き詰まっている最中に飛び出したものであり、米国側がEUに対して一方的な市場開放(とくに米国企業に有利な条件)を求めていることが根底にある。
トランプ氏は過去にも、NAFTA再交渉や対中関税などで、同様の「高関税による圧力戦術」を用いてきた実績があり、今回も同様の手法をEUに対して適用しようとしている。
2. EU側の即時反応と基本姿勢
EUの主要関係者や加盟国の政府首脳は、トランプ氏の一方的な発言を「威圧的」「一方的」と批判し、協調と対話を重視する姿勢を改めて表明した。
(1) マロシュ・シェフチョビチ欧州委員(貿易・経済安全保障担当)
・SNS「X(旧Twitter)」にて、EUは**「自らの利益を守る準備がある」**と述べた。
・両者の貿易関係は「脅しではなく、相互尊重によって導かれるべき」との原則を強調。
・EUは「誠実に交渉し、互いに利益となる協定を模索している」との基本方針を明確にした。
(2) ベルント・ランゲ欧州議会 国際貿易委員長
・SNS「Bluesky」にて、来週EUの代表団が米国・ワシントンD.C.を訪問し、EUの貿易政策に対する「誤解を解く」ための直接的な対話を行う予定であると発表。
・「トランプ氏が本当に協調と交渉を望むのであれば、EUは常に扉を開けている」と述べた上で、「一方的な要求の承認」を求める態度に対しては拒否の姿勢を示した。
・トランプ氏の「EUは米国を搾取するために創設された」との主張に対し、明確に事実誤認であると否定。
3. EU加盟国の政府首脳による反応
EU全体としての対応に加え、複数の加盟国の政府関係者も、個別に強い懸念を表明している。
(1) アイルランド首相 ミホル・マーティン
・トランプ氏の表明を「極めて遺憾(enormously disappointing)」とし、**「世界の主要な貿易関係の一つを深刻に損なう可能性がある」**と指摘。
・関税の影響がEUと米国だけにとどまらず、**「グローバル市場全体にも波及する」**可能性があることを警告。
(2) フランス外務貿易担当大臣 ローラン・サン=マルタン
・フランスメディアBFMTVの取材に応じ、交渉期間中に関税という圧力を用いることは非建設的であると述べた。
・EUは「米国製品に高関税を課すことを望んでいない」としながらも、**「力の均衡を取り戻すために必要であれば対抗措置を取る」**と明言。
・この発言は、EUが単なる受け身ではなく、必要とあらば報復関税を実施する用意があることを示唆している。
(3) ドイツ経済・エネルギー大臣 カタリーナ・ライヒェ
・「関税戦争に勝者は存在しない」と発言し、「関税は米国とEUの双方に等しく害を及ぼす」と警告。
・EU最大の経済国であるドイツとしても、貿易摩擦による製造業や輸出産業への悪影響を強く懸念していることが読み取れる。
4. 今後の展望と懸念
今回の関税表明は正式な政策実施ではなく、「提案(recommendation)」の段階であるが、トランプ氏がこれまでも実際に脅しを現実化してきた前歴を踏まえると、EU側としてはその実行可能性を無視できない。
・EU側が報復関税を発動すれば、報復の連鎖(tit-for-tat)が始まり、貿易戦争に発展する恐れがある。
・自動車、航空機、農産物、ハイテク製品など多くの産業が対象となる可能性があり、多国籍企業や雇用、サプライチェーンに広範な影響を及ぼす。
・また、米国とEUが一致して中国などに対応すべき国際経済の局面において、両者の対立は地政学的にも不安定化を招く可能性がある。
総括
ドナルド・トランプ大統領によるEU製品への50%関税提案は、米EU間の経済関係において重大な分岐点を示すものである。EU側は相互尊重と協調を原則としつつも、必要に応じて断固とした対応を辞さない姿勢を鮮明にしており、今後の動向が国際経済に与える影響は極めて大きいと見られる。
【要点】
1.トランプ大統領による関税提案の概要
・2025年5月24日、SNS「トゥルース・ソーシャル」にて表明。
・内容:EU製品に対し一律50%の関税を提案。
・実施予定日:2025年6月1日から。
・主張
⇨ EUは「米国を貿易で利用している」。
⇨ EUは「非常に交渉が難しい相手」。
・背景
⇨ 米EU間の貿易交渉が停滞中。
⇨ 米国は一方的な市場開放を要求。
⇨ EUは相互利益に基づく協定を希望。
2.EU側の主な反応
(1)欧州委員会
・マロシュ・シェフチョビチ委員(貿易・経済安全保障担当)
⇨ SNS「X」にて発信。
⇨ 「脅しではなく相互尊重が貿易の原則」。
⇨ 「EUは交渉に誠実に取り組む」。
⇨ 「自らの利益を守る準備がある」。
(2)欧州議会
・ベルント・ランゲ国際貿易委員会委員長
⇨ SNS「Bluesky」にて発信。
⇨ 来週、EU代表団がワシントンを訪問予定。
⇨ 「誤解を解き、正しい理解を求める」。
⇨ 「協調には応じるが、一方的要求には応じない」。
⇨ 「EUは米国を搾取するために作られた」という主張を否定。
3.加盟国政府の反応
(1)アイルランド
・ミホル・マーティン首相
⇨ 「非常に遺憾な発言」。
⇨ 「米EU間の重要な貿易関係を損なう」。
⇨ 「世界市場全体に混乱を引き起こす可能性がある」。
(2)フランス
・ローラン・サン=マルタン外務貿易担当大臣
⇨ BFMTVで発言。
⇨ 「交渉中の関税提案は建設的でない」。
⇨ 「高関税は望んでいないが、必要なら報復も辞さない」。
⇨ 「力の均衡を回復するための措置を取る可能性あり」。
(3)ドイツ
・カタリーナ・ライヒェ経済・エネルギー大臣
⇨ 「関税戦争に勝者はいない」。
⇨ 「米国とEUの双方に等しく損害を与える」。
4.全体的な影響と見通し
・トランプ氏の発言は実施前提ではなく「提案」段階だが、過去の事例から見ても実行の可能性は高いと見られている。
・EUは原則的に協調姿勢を維持しながらも、必要に応じて対抗措置を準備。
・想定される影響
⇨ 貿易戦争の激化。
⇨ 関連産業(自動車、農産品、ハイテクなど)への悪影響。
⇨ グローバル市場への波及効果。
⇨ 地政学的リスクの増大(対中戦略などに支障)。
総括
・トランプ大統領の関税提案は、米EU間の貿易・外交関係にとって重大な挑戦。
・EUは一貫して「対話による解決」「相互尊重」「報復も辞さない防衛姿勢」という三本柱で対応。
・今後の交渉の行方が、国際経済の安定性に大きな影響を及ぼす見通し。
【桃源寸評】💚
EUはかつて、米中間で繰り広げられた関税合戦や報復措置の応酬を「対岸の火事」として静観する立場にあり、両者の過激な貿易戦術に対しては距離を置いていた。しかし現在、トランプ政権によるEUへの高関税提案を受けて、EU側の発言や対応姿勢に中国政府を想起させるようなレトリックや構えが見られることは、注目すべき変化である。
以下、その点をいくつかの観点から整理する。
1.かつてのEU:穏健・制度重視の立場
・WTO(世界貿易機関)や多国間協定を重視し、「法の支配」に基づく貿易秩序を強調。
・米中の関税合戦(例:トランプ政権による対中関税、中国の報復関税)に対しては、
⇨ 「不毛な貿易戦争」
⇨ 「相互に損害を与えるだけ」
といった形で距離を取り、自制的・仲裁的な立場を取っていた。
・協調主義と市場開放の理念を基本姿勢としていた。
2.現在のEU:反発と対抗措置の言及
・トランプ氏の50%関税提案を受けて、EU要人は一斉に「対抗措置」「報復関税」を示唆。
・フランスのサン=マルタン大臣の発言(「力の均衡を回復する」「必要であれば報復措置」)は、かつて中国商務省などが用いていた言辞と酷似。
・EU全体として、「協調を望むが、力には力で応じる」という構図が明確に打ち出されつつある。
3.言辞・語調の変化(中国との共通点)
・対米貿易姿勢
中国: 「対話を望むが、国家の利益は断固守る」
現在のEU: 「善意で交渉に臨むが、自国の利益は守る」
・対抗措置の表現
中国: 「必要に応じて断固たる措置を取る」
現在のEU: 「必要であれば力の均衡を取る」
・関税に対する立場
中国: 「貿易戦争に勝者はいない」
現在のEU: 「関税は米国にもEUにも害をなす」
➢ いずれも、「協調と防衛」を同時に掲げる構造になっており、対外発言のスタイルが似通ってきている。
4.背景にある現実主義化・地政学的対応
・EUは、近年の地政学的環境(米国の一国主義化、中国との技術競争、ロシアの侵略など)を受け、理念だけでなく現実的な「戦略的自立」を志向。
・経済安全保障・供給網の見直し・域外依存の減少など、中国が長年掲げてきた「自立自強」的な経済論理にEUも接近しつつある。
・貿易交渉でも「一方的な譲歩はしない」「対抗手段も準備する」といった現実主義的対応が増加。
5.総括:EUは「理想主義から現実主義」への転換期
・トランプ政権による圧力外交を契機に、EUは「理念に基づく自由貿易」から「戦略的利害を重視した交渉」へと舵を切りつつある。
・その過程で、中国のような「防衛的・報復的なレトリック」が部分的にEUにも表れ始めている。
・かつての「対岸の火事」は、今や「自らの庭の火事」となり、EUもまた火消しと防火策の両面に追われている。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Trump's 50 pct tariff threat on EU goods draws rebuke GT 2025.05.25
https://www.globaltimes.cn/page/202505/1334761.shtml
アメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領が欧州連合(EU)からの輸入品に対し50%の関税を課すと発表したことに対し、EUの当局者および加盟国の代表から強い反発の声が上がっている。彼らは、このような威圧的手段は大西洋をまたぐ貿易交渉を危機に晒すものであると警告している。
トランプ大統領は5月24日(金)、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」において、EUが「米国を貿易で利用している」と非難し、「EUとの取引は非常に困難である」と述べた上で、「2025年6月1日よりEU製品に対して一律50%の関税を提案する」と表明した。
この関税の脅威は、EUと米国の貿易交渉が停滞している中で発せられたものであり、報道によれば、米国側はEUに対し一方的な譲歩を求めている一方、EU側は双方に利益をもたらす協定を目指しているとされている。
欧州委員会の貿易・経済安全保障担当委員マロシュ・シェフチョビチ氏はSNS「X」にて、EUは自らの利益を守る用意があると表明した。彼は、「二国間の貿易は脅しではなく相互尊重に基づくべきである」と強調し、「EUは交渉に真摯に取り組む用意がある」と述べた。
欧州議会国際貿易委員会の委員長であるベルント・ランゲ氏はSNS「Bluesky」にて、EU議員団が来週ワシントンを訪問し、EUの貿易政策に関する誤解を解くための説明を行うと投稿した。彼は、「もしトランプ氏が真に協力と交渉を望んでいるのであれば、EUは常に門戸を開いている。だが、彼が単に自らの要求を承認させたいだけであれば、それは誤った扉を叩いていることになる」と述べた。また、トランプ氏の「EUは米国を貿易で利用するために創設された」という主張も否定した。
アイルランドのミホル・マーティン首相は、トランプ氏の発表を「極めて遺憾である」と評し、このような高関税措置は「世界で最も活発な貿易関係の一つを著しく損なう」と警告した上で、世界市場にも混乱をもたらす可能性があると指摘した。
フランスの通商担当大臣ローラン・サン=マルタン氏も、トランプ氏の関税の脅しについて「交渉期間中において何の助けにもならない」と非難し、EUが対立の激化ではなく対話による解決を求めている立場を再確認した。彼はフランスのニュースチャンネルBFMTVの取材に対し、「EUは米国製品に高関税を課すことを望んではいないが、必要とあらば力の均衡を取り戻すための報復措置を講じる用意がある」と語った。
また、ドイツの経済・エネルギー大臣カタリーナ・ライヒェ氏は、「関税紛争に勝者は存在しない」と述べ、「関税は米国とEUの双方に等しく損害を与える」と警鐘を鳴らした。
【詳細】
1. トランプ大統領による関税発言の背景と内容
トランプ大統領は、自身が運営するSNS「トゥルース・ソーシャル」にて、EUが「米国を貿易で利用している」と主張し、「非常に扱いにくい交渉相手である」と非難した。そして、2025年6月1日よりEUからの輸入品に対して一律50%の関税を課すよう提案していると明言した。
この発言は、米国とEUの間で進められていた自由貿易協定に関する交渉が行き詰まっている最中に飛び出したものであり、米国側がEUに対して一方的な市場開放(とくに米国企業に有利な条件)を求めていることが根底にある。
トランプ氏は過去にも、NAFTA再交渉や対中関税などで、同様の「高関税による圧力戦術」を用いてきた実績があり、今回も同様の手法をEUに対して適用しようとしている。
2. EU側の即時反応と基本姿勢
EUの主要関係者や加盟国の政府首脳は、トランプ氏の一方的な発言を「威圧的」「一方的」と批判し、協調と対話を重視する姿勢を改めて表明した。
(1) マロシュ・シェフチョビチ欧州委員(貿易・経済安全保障担当)
・SNS「X(旧Twitter)」にて、EUは**「自らの利益を守る準備がある」**と述べた。
・両者の貿易関係は「脅しではなく、相互尊重によって導かれるべき」との原則を強調。
・EUは「誠実に交渉し、互いに利益となる協定を模索している」との基本方針を明確にした。
(2) ベルント・ランゲ欧州議会 国際貿易委員長
・SNS「Bluesky」にて、来週EUの代表団が米国・ワシントンD.C.を訪問し、EUの貿易政策に対する「誤解を解く」ための直接的な対話を行う予定であると発表。
・「トランプ氏が本当に協調と交渉を望むのであれば、EUは常に扉を開けている」と述べた上で、「一方的な要求の承認」を求める態度に対しては拒否の姿勢を示した。
・トランプ氏の「EUは米国を搾取するために創設された」との主張に対し、明確に事実誤認であると否定。
3. EU加盟国の政府首脳による反応
EU全体としての対応に加え、複数の加盟国の政府関係者も、個別に強い懸念を表明している。
(1) アイルランド首相 ミホル・マーティン
・トランプ氏の表明を「極めて遺憾(enormously disappointing)」とし、**「世界の主要な貿易関係の一つを深刻に損なう可能性がある」**と指摘。
・関税の影響がEUと米国だけにとどまらず、**「グローバル市場全体にも波及する」**可能性があることを警告。
(2) フランス外務貿易担当大臣 ローラン・サン=マルタン
・フランスメディアBFMTVの取材に応じ、交渉期間中に関税という圧力を用いることは非建設的であると述べた。
・EUは「米国製品に高関税を課すことを望んでいない」としながらも、**「力の均衡を取り戻すために必要であれば対抗措置を取る」**と明言。
・この発言は、EUが単なる受け身ではなく、必要とあらば報復関税を実施する用意があることを示唆している。
(3) ドイツ経済・エネルギー大臣 カタリーナ・ライヒェ
・「関税戦争に勝者は存在しない」と発言し、「関税は米国とEUの双方に等しく害を及ぼす」と警告。
・EU最大の経済国であるドイツとしても、貿易摩擦による製造業や輸出産業への悪影響を強く懸念していることが読み取れる。
4. 今後の展望と懸念
今回の関税表明は正式な政策実施ではなく、「提案(recommendation)」の段階であるが、トランプ氏がこれまでも実際に脅しを現実化してきた前歴を踏まえると、EU側としてはその実行可能性を無視できない。
・EU側が報復関税を発動すれば、報復の連鎖(tit-for-tat)が始まり、貿易戦争に発展する恐れがある。
・自動車、航空機、農産物、ハイテク製品など多くの産業が対象となる可能性があり、多国籍企業や雇用、サプライチェーンに広範な影響を及ぼす。
・また、米国とEUが一致して中国などに対応すべき国際経済の局面において、両者の対立は地政学的にも不安定化を招く可能性がある。
総括
ドナルド・トランプ大統領によるEU製品への50%関税提案は、米EU間の経済関係において重大な分岐点を示すものである。EU側は相互尊重と協調を原則としつつも、必要に応じて断固とした対応を辞さない姿勢を鮮明にしており、今後の動向が国際経済に与える影響は極めて大きいと見られる。
【要点】
1.トランプ大統領による関税提案の概要
・2025年5月24日、SNS「トゥルース・ソーシャル」にて表明。
・内容:EU製品に対し一律50%の関税を提案。
・実施予定日:2025年6月1日から。
・主張
⇨ EUは「米国を貿易で利用している」。
⇨ EUは「非常に交渉が難しい相手」。
・背景
⇨ 米EU間の貿易交渉が停滞中。
⇨ 米国は一方的な市場開放を要求。
⇨ EUは相互利益に基づく協定を希望。
2.EU側の主な反応
(1)欧州委員会
・マロシュ・シェフチョビチ委員(貿易・経済安全保障担当)
⇨ SNS「X」にて発信。
⇨ 「脅しではなく相互尊重が貿易の原則」。
⇨ 「EUは交渉に誠実に取り組む」。
⇨ 「自らの利益を守る準備がある」。
(2)欧州議会
・ベルント・ランゲ国際貿易委員会委員長
⇨ SNS「Bluesky」にて発信。
⇨ 来週、EU代表団がワシントンを訪問予定。
⇨ 「誤解を解き、正しい理解を求める」。
⇨ 「協調には応じるが、一方的要求には応じない」。
⇨ 「EUは米国を搾取するために作られた」という主張を否定。
3.加盟国政府の反応
(1)アイルランド
・ミホル・マーティン首相
⇨ 「非常に遺憾な発言」。
⇨ 「米EU間の重要な貿易関係を損なう」。
⇨ 「世界市場全体に混乱を引き起こす可能性がある」。
(2)フランス
・ローラン・サン=マルタン外務貿易担当大臣
⇨ BFMTVで発言。
⇨ 「交渉中の関税提案は建設的でない」。
⇨ 「高関税は望んでいないが、必要なら報復も辞さない」。
⇨ 「力の均衡を回復するための措置を取る可能性あり」。
(3)ドイツ
・カタリーナ・ライヒェ経済・エネルギー大臣
⇨ 「関税戦争に勝者はいない」。
⇨ 「米国とEUの双方に等しく損害を与える」。
4.全体的な影響と見通し
・トランプ氏の発言は実施前提ではなく「提案」段階だが、過去の事例から見ても実行の可能性は高いと見られている。
・EUは原則的に協調姿勢を維持しながらも、必要に応じて対抗措置を準備。
・想定される影響
⇨ 貿易戦争の激化。
⇨ 関連産業(自動車、農産品、ハイテクなど)への悪影響。
⇨ グローバル市場への波及効果。
⇨ 地政学的リスクの増大(対中戦略などに支障)。
総括
・トランプ大統領の関税提案は、米EU間の貿易・外交関係にとって重大な挑戦。
・EUは一貫して「対話による解決」「相互尊重」「報復も辞さない防衛姿勢」という三本柱で対応。
・今後の交渉の行方が、国際経済の安定性に大きな影響を及ぼす見通し。
【桃源寸評】💚
EUはかつて、米中間で繰り広げられた関税合戦や報復措置の応酬を「対岸の火事」として静観する立場にあり、両者の過激な貿易戦術に対しては距離を置いていた。しかし現在、トランプ政権によるEUへの高関税提案を受けて、EU側の発言や対応姿勢に中国政府を想起させるようなレトリックや構えが見られることは、注目すべき変化である。
以下、その点をいくつかの観点から整理する。
1.かつてのEU:穏健・制度重視の立場
・WTO(世界貿易機関)や多国間協定を重視し、「法の支配」に基づく貿易秩序を強調。
・米中の関税合戦(例:トランプ政権による対中関税、中国の報復関税)に対しては、
⇨ 「不毛な貿易戦争」
⇨ 「相互に損害を与えるだけ」
といった形で距離を取り、自制的・仲裁的な立場を取っていた。
・協調主義と市場開放の理念を基本姿勢としていた。
2.現在のEU:反発と対抗措置の言及
・トランプ氏の50%関税提案を受けて、EU要人は一斉に「対抗措置」「報復関税」を示唆。
・フランスのサン=マルタン大臣の発言(「力の均衡を回復する」「必要であれば報復措置」)は、かつて中国商務省などが用いていた言辞と酷似。
・EU全体として、「協調を望むが、力には力で応じる」という構図が明確に打ち出されつつある。
3.言辞・語調の変化(中国との共通点)
・対米貿易姿勢
中国: 「対話を望むが、国家の利益は断固守る」
現在のEU: 「善意で交渉に臨むが、自国の利益は守る」
・対抗措置の表現
中国: 「必要に応じて断固たる措置を取る」
現在のEU: 「必要であれば力の均衡を取る」
・関税に対する立場
中国: 「貿易戦争に勝者はいない」
現在のEU: 「関税は米国にもEUにも害をなす」
➢ いずれも、「協調と防衛」を同時に掲げる構造になっており、対外発言のスタイルが似通ってきている。
4.背景にある現実主義化・地政学的対応
・EUは、近年の地政学的環境(米国の一国主義化、中国との技術競争、ロシアの侵略など)を受け、理念だけでなく現実的な「戦略的自立」を志向。
・経済安全保障・供給網の見直し・域外依存の減少など、中国が長年掲げてきた「自立自強」的な経済論理にEUも接近しつつある。
・貿易交渉でも「一方的な譲歩はしない」「対抗手段も準備する」といった現実主義的対応が増加。
5.総括:EUは「理想主義から現実主義」への転換期
・トランプ政権による圧力外交を契機に、EUは「理念に基づく自由貿易」から「戦略的利害を重視した交渉」へと舵を切りつつある。
・その過程で、中国のような「防衛的・報復的なレトリック」が部分的にEUにも表れ始めている。
・かつての「対岸の火事」は、今や「自らの庭の火事」となり、EUもまた火消しと防火策の両面に追われている。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Trump's 50 pct tariff threat on EU goods draws rebuke GT 2025.05.25
https://www.globaltimes.cn/page/202505/1334761.shtml