中国:航空宇宙分野において自主的かつ指導的地位を拡大2025年04月20日 15:22

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【概要】

 中国の国産大型水陸両用消防機「AG600(Kunlong)」が中国民用航空局(CAAC)から型式証明(Type Certificate)を取得したことが報じられた。これは当該機体が航空適合性基準を満たしていることを示すものであり、正式な市場投入の準備が整ったことを意味する。2025年4月20日、中央テレビ(CCTV)が伝えた。

 AG600は中国航空工業集団公司(AVIC)によって開発された機体であり、世界最大の民間用水陸両用航空機とされている。最大離陸重量は60トン、最大で12トンの消火用水を搭載可能である。巡航速度は時速220キロメートル、航続距離は4,500キロメートルに及び、森林火災対応、物流輸送、通信支援などの任務に適しているとされている。

 AG600の開発は、中国の航空産業における技術的成果であり、緊急救援、災害対応、空中消火能力の大幅な向上をもたらすものと位置づけられている。これまでに陸上、水上、海上での各種試験飛行を成功させており、2025年2月には最終段階の試験を完了し、認証飛行を成功裏に終えたとされる。

 当該機体の特徴は、陸上および水上の双方での運用能力を備える点にある。この点は設計上の大きな挑戦であり、特に空気と水という性質の大きく異なる媒質(密度差約800倍)を相手にする必要があった。これに対応するため、AG600の開発チームは風洞実験および流体力学試験を1万回以上実施し、飛行性能と航行性能の両立に成功した。

 AG600は船体形状を有し、翼端には水上安定用のフロートが設けられている。また、船体下面には段付き船体(ステップド・ハル)と波消し溝が施され、水上航行時の効率性を高めているとされる。これらの構造は、水陸両用運用に必要な技術的要件を満たすために設計されたものである。

 今回の型式証明の取得により、次に必要となるのは量産に向けた製造証明(Production Certificate, PC)および個別機体ごとの耐空証明(Airworthiness Certificate, AC)である。これらの手続きが完了した後、AG600は正式に商用運用に入ることになる。

 この成果は、単なる技術的達成にとどまらず、中国が航空宇宙分野において自主的かつ指導的地位を拡大していることを象徴するものとされている。大型特殊用途航空機の開発において中国が新たな段階に到達したことを示す出来事であり、同国の航空産業の国際的地位の向上にもつながるものであると報じられている。

【詳細】

 機体概要

 AG600「Kunlong」は、中国航空工業集団公司(AVIC)が開発した大型水陸両用航空機である。これは中国における国家重大特殊用途航空機プロジェクトの一環として設計されたものであり、同国が航空技術面において独自開発能力を有していることを示す象徴的機体とされている。

 本機の最大離陸重量は60トンに達し、最大12トンの水を搭載できる能力を備える。これは主として森林火災時の大量散水による消火任務を意図した設計である。加えて、AG600は物資輸送や無線通信支援、災害救助任務など、多目的な運用に対応可能とされている。巡航速度は220km/h、最大航続距離は4,500kmに及び、広域作戦や遠隔地での任務遂行に対応可能である。

 設計的特徴と技術的挑戦

 AG600の最大の特徴は「陸上と水上の双方での離着陸・航行能力」を備えている点にある。これにより、空港のインフラが不十分な地域や、海上での緊急対応が求められる場面においても運用可能である。こうした両用性を実現するにあたり、設計上の難題がいくつか存在した。

 とりわけ重要な課題は、空気(飛行時)と水(航行時)という、物理的性質が著しく異なる媒質を対象とした性能最適化である。具体的には、空気と水の密度差は約800倍にも及び、それぞれの環境における機体挙動、圧力、抗力、浮力などのパラメータが大きく異なるため、機体設計には精密な調整が必要であった。

 開発チームはこの課題を克服するため、風洞実験および水流・波浪試験などの流体力学的検証を1万回以上実施し、飛行時と水上走行時の両方で安定した挙動を確保するための技術的解法を確立した。

 具体的な設計要素として、以下が挙げられる。

 ・船体形状(ボート型):胴体下部が船体構造となっており、水面離着水時の抗力を低減し、安定した浮上・加速を可能としている。

 ・ステップド・ハル(段付き船底):水からの離脱時の抵抗を軽減し、効率的な離水を実現するために用いられている。

 ・波消し溝(ウェーブ・ブレイカー):波による機体の揺れや抵抗を減らし、水上航行時の操縦性を向上させる機能を持つ。

 ・翼端フロート(フロートポンツーン):水面において横方向の安定性を確保するため、主翼の両端に装備された浮力構造体である。

 これらの設計は全て、水陸両用機としての安全性、性能、信頼性を高めるために開発されたものである。

 開発・試験経過

 AG600の開発には長年を要し、段階的に試験を進めてきた。これまでに陸上飛行、水上滑走、海上離着水などの各種試験を実施し、すべての環境下で安定した動作を確認している。2025年2月には最終的な検証飛行(認証飛行)を完了し、設計仕様の全体的な妥当性が確認された。

 型式証明(Type Certificate)の意義

 今回、AG600が取得した「型式証明」は、中国民用航空局(CAAC)が発行するものであり、「この型の航空機が、安全性・信頼性・技術基準を満たしている」ことを正式に認める証明である。これは航空機の市場投入に向けた重要な節目であり、商業・行政運用への第一歩とされる。

 ただし、実際の運用開始に向けては、今後以下の証明取得が必要となる。

 ・製造証明(Production Certificate, PC):量産体制における品質管理および製造能力の認証。

 ・耐空証明(Airworthiness Certificate, AC):実際に製造された各機体ごとの飛行適合性評価。

 これらの認証プロセスを経て、AG600は正式に各地での運用が可能となる。

 国家的意義

 AG600の型式証明取得は、中国の航空機開発における重大な前進を意味するものであり、同国が特殊用途航空機(特に水陸両用機)において自立的な開発能力を確保していることを国際的に示すものでもある。CCTVはこれを、「単なる技術的成果ではなく、航空宇宙分野における中国の独立性・主導性を象徴する出来事」として報じている。
 
【要点】 

 1. 基本情報

 ・AG600は中国航空工業集団公司(AVIC)が開発した国産大型水陸両用機である。

 ・愛称は「Kunlong」であり、中国国内の大型特殊用途航空機プロジェクトの一環として位置付けられている。

 ・民間向け水陸両用機としては世界最大規模の機体である。

 2. 性能仕様

 ・最大離陸重量:60トン。

 ・消火用の水搭載量:最大12トン。

 ・巡航速度:220km/h。

 ・最大航続距離:4,500km。

 ・主な用途:森林火災への対応、災害救助、物資輸送、通信支援など。

 3. 設計上の特徴

 ・船体型胴体を採用し、水面上での安定性と離水性能を両立している。

 ・ステップド・ハル構造により水面抵抗を低減し、効率的な離水を実現。

 ・翼端にフロートを装備し、水上での横揺れを抑制。

 ・船体下部には波消し溝(ウェーブブレイカー)を設置し、波浪下での安定性を強化。

 ・空気と水の密度差(約800倍)に対応するため、風洞・水流試験を1万回以上実施。

 4. 開発と試験の経過

 ・長年にわたる研究開発と設計改良が重ねられた。

 ・陸上、水上、海上の各環境において試験飛行を実施し、全て成功。

 ・2025年2月に最終的な認証飛行を完了。
 
 5. 型式証明の取得

 ・2025年4月、中国民用航空局(CAAC)より「型式証明(Type Certificate)」を取得。

 ・これは設計・性能・安全性が法的基準を満たしていることを示す認証である。

 ・市場投入への重要な段階を突破したことを意味する。

 6. 今後必要な手続き

 ・「製造証明(Production Certificate, PC)」の取得が必要。

 ・各機体ごとに「耐空証明(Airworthiness Certificate, AC)」を取得する必要あり。

 ・これらを経て、正式な商業運用が開始される見通し。

 7. 国家的意義

 ・AG600の成功は中国航空産業における技術的独立性と主導権の象徴とされる。

 ・中国が特殊用途大型航空機を自力で開発・認証・量産可能であることを示す事例である。

 ・CCTVはこれを「国家航空宇宙力の飛躍的進展」として評価している。

【引用・参照・底本】

China's homegrown amphibious AG600 'Kunlong' receives Type Certificate from CAAC, signaling its official launch GT 2025.04.20
https://www.globaltimes.cn/page/202504/1332459.shtml

米国の措置:「市場原則」「国際協調」「グローバル経済秩序」に反すると強く主張2025年04月20日 17:22

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【桃源寸評】

 トランプは、真面な政治家とは迚もじゃないが云えまい。なぜ斯様なことが罷り通るのか。国際社会は共同で米国の狂気を抑止しなければならない。

 いくら中国を口汚く非難しても、どのように制裁しても、中国は進展するし、反して米国は見る影もなく零落するだけだ。

 足元を見よ。

【寸評 完】

【概要】

 2025年4月19日、中国の複数の業界団体は、米国通商代表部(USTR)が発動した「セクション301」に基づく措置に対し、強い反対の声明を発表した。これらの措置は、中国の海運、物流、造船部門を対象としており、4月18日に中国商務部(MOFCOM)が示した強い反対姿勢を受けた形である。

 中国物流与採購連合会(CFLP)は、米国の制限措置を批判し、米国に対して市場原則および多国間貿易規則の遵守と、行動の是正を求めた。同会は、米国の一方的かつ保護主義的な姿勢が、多国間貿易体制および国際貿易ルールを損なうと主張した。さらに、今回の措置は中国および米国双方の物流企業、船主、荷主、輸入業者、輸出業者、消費者に悪影響を及ぼすと警告し、国際物流コストの上昇、グローバルな産業・供給チェーンの混乱、ひいては世界経済発展への脅威となり得ると指摘した。

 中国船舶工業行業協会(CANSI)もまた、米国の制限措置に対し強い反対を表明した。同協会は、米国による中国造船業界への取り締まりを「根拠のない非難」とし、「不完全な調査結果」に基づいていると批判した。その上で、このような措置は国際貿易規則に反し、グローバルな海運産業の協調的発展を著しく損なうものであると主張した。

 CANSIによれば、米国の造船業界における回復を支援するどころか、この措置は国際的な輸送コストを直接的に押し上げ、米国内のインフレ危機をさらに悪化させ、米国民の基本的生活水準にも悪影響を及ぼすとされる。この見解は、同協会のWeChat公式アカウント上にて発信された。

 また、中国船東協会(CSA)も米国の措置に対して強く抗議し、根拠のない非難は誤った情報と偏見に基づいていると反論した。さらに、保護主義的措置の乱用が国際海運市場を混乱させていることを非難した。

 CSAは、米国に対し、政治的偏見に基づく調査および措置の中止を要求し、全ての差別的措置の撤回と、国際貿易ルールおよび市場原則に真正面から従うことを求めた。また、海運・物流・造船産業の正常な発展を深刻に損なうような行動をやめるよう呼びかけている。

 一方、これに先立ち中国商務部(MOFCOM)は4月18日、USTRのセクション301措置に対して「強い遺憾と断固たる反対」を表明した。同部の報道官は、今回の措置は「差別的要素を含む典型的な非市場的行為」であると述べ、中国政府として状況を注視し、自国の権益を断固として守るための措置を講じる用意があると表明している。

【詳細】

 1. 米国の「セクション301」措置の背景と対象

 2025年4月、米国通商代表部(USTR)は「通商法301条(セクション301)」に基づき、中国の**海運(maritime)・物流(logistics)・造船(shipbuilding)**の3分野に対し新たな制裁的措置を発動した。セクション301は、外国の不公正な貿易慣行に対抗するために米国が一方的に関税や貿易制限を課す法的手段であり、過去にも中国との摩擦の際に度々用いられてきた。今回の措置により、中国の上記3部門に関与する企業・機関に対し、関税の強化、制限的規制、調査の拡大等が想定される。

 2. 中国物流与採購連合会(CFLP)の主張

 CFLPは、米国による措置が一方的かつ保護主義的であり、多国間主義と市場経済の原則に反すると強調している。具体的には以下の懸念を表明している。

 ・米国の措置は、国際貿易のルールを著しく損ない、WTO体制などの多国間貿易機構の信頼性を低下させる。

 ・対象となる物流関連事業者(例:運送会社、港湾業者)だけでなく、船主、荷主、輸出入業者、最終消費者など、サプライチェーン全体の関係者が影響を受ける。

 ・結果として、国際物流のコストが上昇し、供給網の混乱、さらには世界経済の回復基調への打撃となり得る。

 ・米中間の経済・貿易関係にも長期的な悪影響を及ぼす可能性がある。

 3. 中国船舶工業行業協会(CANSI)の見解

 CANSIは、米国による中国造船業への制限について、以下のような批判を行っている:

  ・米国は中国の造船業に対し「根拠のない非難」と「不正確な調査」に基づき措置を講じており、その手法自体が不公正である。

 ・同措置は、国際貿易ルール違反であり、特に造船というグローバル連携が前提の産業構造に対し、深刻な混乱をもたらす。

 ・米国は自国の造船産業を保護する目的と主張しているが、実際には国際輸送コストの上昇、インフレ圧力の強化、ひいては米国民の生活コスト上昇を招くと警告している。

 同協会は、中国造船業が長年にわたってグローバルな市場競争を経て成長してきたことを強調し、米国のような**「貿易を政治化する行為」**は、全体の健全な発展を損ねるとしている。

 4. 中国船東協会(CSA)の見解

 CSAもまた、米国の措置に対し断固とした抗議を表明し、以下のような主張を展開している。

 ・米国の主張は「誤った情報と偏見」に基づいており、保護主義の濫用に他ならない。

 ・このような措置は、グローバルな海運市場の自由競争と秩序を破壊するものであり、市場の正常な運営に深刻な支障をもたらす。

 ・CSAは、米国に対し以下を強く要請している。

  ⇨ 政治的偏見による調査と措置の即時停止

  ⇨ 全ての差別的措置の撤回

  ⇨ 国際貿易ルールと市場原則への忠実な遵守

 ・これらの措置が続けば、海運・物流・造船という国際産業の持続的発展を妨げる重大な障害となると警告している。

 5. 中国商務部(MOFCOM)の対応

 これらの業界団体の発言に先立ち、4月18日に中国政府を代表して中国商務部が正式に以下の立場を表明している:

 ・米国の措置は「差別的性質を含む、典型的な非市場的行為」であり、中国として強い遺憾と断固とした反対の意を示す。

 ・商務部の報道官は、今後の展開を綿密に注視する方針を示しつつ、必要に応じて中国の合法的権益を守るための断固たる措置を講じると警告した。

 まとめ

 今回の声明群は、米国のセクション301措置に対する中国側の反発の深さを物語っている。単に政府だけでなく、各業界団体が即座に対応し、それぞれの視点から米国の措置が「市場原則」「国際協調」「グローバル経済秩序」に反すると強く主張している点が特徴である。

このような摩擦が今後さらに激化すれば、両国間の物流や供給網の安定性はもちろん、世界経済の構造そのものに影響を及ぼす可能性も否定できない。
 
【要点】 

 米国の措置について

 ・米国通商代表部(USTR)は、2025年4月に「セクション301」に基づき、中国の海運・物流・造船分野に対する制裁的措置を発表した。

 ・同措置は、米国が中国の不公正な貿易慣行に対抗するとして、一方的に講じたものである。

 中国物流与採購連合会(CFLP)の主張

 ・米国の措置は一方的かつ保護主義的であり、多国間貿易ルールに反するものである。

 ・国際物流企業、船主、荷主、輸出入業者、消費者など、双方の関係者に悪影響を及ぼす。

 。国際物流コストが上昇し、供給網が混乱し、世界経済の発展を脅かす可能性がある。

 ・米中経済・貿易関係に深刻な損害を与えるおそれがある。

 中国船舶工業行業協会(CANSI)の主張

 ・米国は根拠のない非難と誤った調査に基づき中国造船業を攻撃している。

 ・これは国際貿易ルールに違反し、海運産業の国際的な協力体制を損なう。

 ・制裁措置は、米国の造船業の回復には寄与せず、むしろ国際輸送コストを押し上げ、
米国内のインフレや国民生活の負担増を招くと指摘している。

 中国船東協会(CSA)の主張

 ・米国の非難は誤情報と偏見に基づいており、保護主義の乱用である。

 ・グローバルな海運市場の秩序と公正な競争を損なう。

 ・米国に対して以下を要求している。

  ⇨ 政治的偏見に基づく調査と措置の即時停止

  ⇨ 全ての差別的措置の撤回

  ⇨ 国際貿易ルールと市場原則の順守

 ・制裁が続けば、海運・物流・造船業界の正常な発展に深刻な悪影響を与えると警告している。

 中国商務部(MOFCOM)の見解

 ・米国の措置は差別的で典型的な非市場的行為であると非難している。

 ・中国政府は強い遺憾と断固たる反対を表明した。

 ・中国は今後の動向を注視し、必要に応じて正当な権益を守るための措置を取るとしている。

【引用・参照・底本】

Multiple Chinese industry associations oppose US restrictions on China’s maritime, logistics, shipbuilding sectors GT 2025.04.19
https://www.globaltimes.cn/page/202504/1332435.shtml

プーチン:復活祭(イースター)の期間中に一方的な停戦を実施2025年04月20日 17:42

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【概要】

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、2025年4月19日(土)、ウクライナとの紛争に関連して、復活祭(イースター)の期間中に一方的な停戦を実施することを発表した。

 この停戦は、同日午後6時(現地時間、グリニッジ標準時15時)から開始され、4月21日(月)に日付が変わるまで、すなわち4月20日(日)午後11時59分(グリニッジ標準時21時)まで継続される予定である。

 プーチン大統領は、ロシア連邦参謀総長ヴァレリー・ゲラシモフとの会合において、クレムリンのテレグラム公式アカウントを通じて「この期間中、戦闘行為を全面的に停止するよう命じた」と述べた。

 また、プーチン大統領は、ロシア側の停戦措置に対し、ウクライナ側も同様に戦闘を停止するよう期待を示した。

 さらに同大統領は、「我が軍は、停戦違反や挑発行為、敵によるいかなる攻撃的行動にも対処できるよう、常に高度な警戒態勢を維持しなければならない」と強調した。

【詳細】

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、2025年4月19日(土)に、ウクライナとの武力衝突に関連して、復活祭(イースター)の宗教的意義に配慮したとみられる一方的な停戦措置を宣言した。この措置はロシア側の独自の決定によるものであり、いかなる交渉や合意に基づくものではなく、ロシア政府が一方的に発表したものである。

 停戦の具体的な時間は、モスクワ時間で4月19日午後6時(日本時間では午後11時)、グリニッジ標準時では15時に始まり、翌20日(日)の深夜24時(日本時間では21日午前5時)、すなわちグリニッジ標準時で21時まで続くとされた。この時間設定は、キリスト教圏における復活祭の礼拝や家族の集まりなどの宗教的行事の時間帯と重なるように意図されていると推察されるが、文書上には宗教的理由は明示されていない。

 プーチン大統領は、ロシア軍参謀総長ヴァレリー・ゲラシモフとの協議の場において、この停戦について言及し、「この期間中、我が軍はすべての戦闘行動を完全に停止するよう命じた」と語った。この発言はクレムリンの公式テレグラムアカウントを通じて公表されており、ロシア政府として公式な立場として発表されたものである。

 同時にプーチン大統領は、ウクライナ側にも同様に戦闘を控えるよう促し、「我々はウクライナがこの期間中に敵対行為を停止することを期待している」と述べた。これは、ロシア側の停戦措置が一方的なものである一方で、ウクライナ側の応答によって一時的な相互停戦の状態が実現する可能性を示唆するものである。

 ただし、プーチン大統領は、ロシア軍に対して警戒を緩めないよう厳命しており、「我が軍は、停戦違反、挑発行為、また敵によるいかなる攻撃的行動にも対処できるよう、常に高い警戒態勢を維持せねばならない」と強調した。これにより、名目上は停戦であっても、軍事的緊張状態そのものが緩和されることは想定されておらず、現場の部隊には即応体制の維持が求められていることが明らかとなった。

 この一方的停戦宣言は、宗教的祝祭の時期に合わせた象徴的な措置であると同時に、国際社会や国内世論への一定のメッセージを含んでいると解されるが、今回提供された資料中には、ウクライナ政府の反応やその可否に関する情報は含まれておらず、またロシア側の軍事行動全体にどのような影響があるかについても具体的な説明はなされていない。
 
【要点】 

 ・ロシア連邦のウラジーミル・プーチン大統領は、2025年4月19日(土)に、ウクライナとの軍事衝突に関して「イースター停戦(復活祭停戦)」を一方的に宣言した。

 ・停戦の開始時刻は、ロシア現地時間で4月19日(土)午後6時(モスクワ時間18:00、グリニッジ標準時15:00)である。

 ・停戦の終了時刻は、4月21日(月)午前0時、すなわち4月20日(日)の深夜であり、グリニッジ標準時では4月20日(日)21:00にあたる。

 ・この停戦期間中、ロシア軍はすべての戦闘行動を停止するよう命令されたとされる。

 ・この発言は、ロシア参謀総長ヴァレリー・ゲラシモフとの会合において、プーチン大統領が述べたものであり、クレムリンのテレグラム公式アカウントを通じて公表された。

 ・プーチン大統領は、ウクライナ側にも同様の停戦措置をとるよう期待していると述べ、相互の停戦に発展する可能性に言及した。

 ・一方で、プーチン大統領は、ロシア軍に対しては停戦期間中も高度な警戒態勢を維持するよう命じており、敵による停戦違反、挑発行為、その他の攻撃的行動への即応体制を保つ必要性を強調した。

 ・この停戦は、宗教的祝日である復活祭のタイミングに合わせて宣言されたものであるが、文中に宗教的動機についての明示はない。

 ・停戦の発表はロシア側からの一方的なものであり、ウクライナ側がこれに同調するかどうかは不明である。

 ・提供された情報の範囲では、停戦の実施状況、戦場での具体的な影響、またウクライナ政府あるいは軍の反応についての詳細は含まれていない。

【引用・参照・底本】

Putin declares Easter truce in Ukraine conflict GT 2025.04.19
https://www.globaltimes.cn/page/202504/1332447.shtml

NvidiaのCEO:「中国は脅威ではなく機会である」2025年04月20日 17:51

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【概要】

 米国の半導体企業であるNvidiaのCEO、ジェンスン・フアン氏は、2025年1月の訪問から約3か月後に再び中国を訪れ、「中国市場に揺るぎなく奉仕する」との方針を公に表明した。また、フアン氏は中国が世界的なサプライチェーンの中で重要な位置を占めていることを強調し、Nvidiaは中国市場と共に成長し、互いに成功を収めてきたと述べた。

 この発言は、米国政府がNvidiaのH20チップの対中輸出を禁止し、関税措置を強化するという保護主義的な貿易政策を進める中でなされたものであり、米国企業による間接的な抵抗の一例とみなされている。フアン氏の「中国は脅威ではなく機会である」との見解や「デカップリング(切り離し)ではなく協力を」との呼びかけは、米国のテクノロジーおよびビジネス界において広く共鳴を呼んでいる。

 中国は世界最大級の消費市場であり、その産業エコシステムの成熟と幅広い応用環境は、Nvidiaをはじめとする米国企業にとって継続的なイノベーションの重要な原動力である。フアン氏は、中国企業との緊密な協力関係がNvidiaの国際競争力を一層高めたことにも言及している。また、過去に複数の米国企業幹部が「政府の庇護ではなく、障害の除去を求める」と述べており、対中協力の必要性と緊急性は、米政府の関税政策の文脈下で改めて浮き彫りになっている。

 こうした動きはテクノロジー分野に限らず、米国社会全体にも広がっており、「我々には中国が必要だ」という声が多方面から上がっている。ピュー・リサーチ・センターの最近の調査によれば、過去5年間で中国を「敵」と見なす米国人の割合は大きく減少し、中国に対する否定的な見方が顕著に減退しているという。ブルームバーグはこの傾向を「関税政策と相反する世論」と評し、「驚きの結果」と表現している。

 さらに、TikTokなどの海外SNSプラットフォーム上では、中国製品のECが想定外の成功を収め、「メイド・イン・チャイナ」への新たな関心が米国消費者の間で高まっている。インフルエンサーたちが中国の通販サイトから購入した商品を開封する動画を投稿し、「同じ品質の製品が10分の1の価格で手に入る」といった反応が目立っている。

 こうした中、米政府が対中対立を強め、中国と米国の経済関係を緊張させているにもかかわらず、米国社会はゼロサム的な対中政策を支持していない。ピュー調査の結果は、米政府による対中関税政策の正当性に疑問を投げかけており、その単純化された敵対構造が現実の複雑性を無視していることを示している。米政府の関税濫用は、米中間の高度な経済的補完性や両国国民の実利的なニーズを無視し、結果として米国経済および世界経済全体に混乱と不確実性をもたらしている。

 中国に対する認識の形成に関して、誰が米国人の意見に影響を与えているのかを冷静に見つめ直す必要がある。近年、米国の政治家たちは中国を語る際、決まり文句のように「中国の脅威」を口にしており、その影響を受けた国民も少なくない。「中国が米国を利用している」「米中の貿易不均衡を是正すべき」「中国を経済的に封じ込めて『アメリカ・ファースト』を実現する」といった主張は、いずれもワシントンの旧来的な政策論理に基づくものである。

 しかし現実には、米中間の経済・貿易協力は双方に大きな利益をもたらしており、米国も中国と同様に恩恵を受けている。米国は中国から多くの消費財、中間財、資本財を輸入しており、製造業のサプライチェーンを支え、消費者の選択肢を広げ、生活費を引き下げ、特に中低所得層の実質購買力を向上させている。モノの貿易だけでなく、サービス貿易や相互の現地法人の売上収益を含めて評価すれば、米中間の経済的利益は概ね均衡している。このような事実は、いかなる虚偽や中傷によっても覆い隠すことはできず、むしろ経済関係が困難に直面するほど、米国内でこの現実が響きやすくなるのである。

 カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は、連邦政府による関税政策の乱用に対して提訴する方針を明らかにし、「我々は混乱を許容できない米国の家族のために立ち上がる」と述べている。

 米中関係の希望は人民にあり、その基礎は社会にあり、その未来は若者にあり、その活力は地方レベルの交流にある。Global Times傘下のGlobal Times Institute(GTI)が2024年に実施した「米中間の相互認識」に関する世論調査では、米中両国の回答者のおよそ9割が二国間関係に懸念を抱いており、経済・貿易交流や人的交流、気候変動分野での協力を支持するという主流の世論が確認されている。

 また、近年のSNS上での米中市民の活発な草の根的交流も、ワシントンの一部政治家による反中キャンペーンの背後にあっても、両国の人々の間には平和的共存と協力関係を求める強い意志が残っていることを示している。米政府が今後も中国に対し関税による圧力を続け、「デカップリング」を扇動し続けるならば、米国有権者の間で高まりつつある反発が、やがてワシントンが無視できない政治的現実として立ち現れる可能性がある。

【詳細】

 2025年1月に続き、4月に再び中国を訪問したNVIDIAのCEOジェンスン・フアン氏は、同社が「中国市場に対して揺るぎなくサービスを提供し続ける」と明言し、中国が世界のサプライチェーンにおいて重要な役割を果たしていると強調した。彼はまた、NVIDIAは中国市場とともに成長し、相互に成功を収めてきたと述べた。この発言は、米国がNVIDIAのH20チップの対中輸出を禁止し、関税を課している状況の中で行われており、米企業が自国政府の保護主義政策に対して間接的に反発している姿勢と解釈できる。

 フアン氏は中国を「脅威ではなく、機会」と捉え、「分断ではなく協力」を訴えており、これは米国のテクノロジー業界やビジネス界に広く共鳴している。中国は世界最大級の消費市場であり、活発な産業エコシステムと幅広い応用分野を備えており、NVIDIAのような米国企業にとって、革新を継続するための原動力を提供している。フアン氏によれば、中国企業との深い協力関係がNVIDIAの国際競争力を高める要因となった。

 これまでにも一部の米企業の経営者たちは「政府に従うのではなく、政府が我々の前に道を開くべきだ」と述べており、米国政府が関税を一方的に導入したことにより、むしろ中国との協力の重要性が「予想外にも」浮き彫りになったとの指摘がある。

 このような声は、テクノロジー業界にとどまらず、米国社会全体に広がっており、「我々には中国が必要だ」との主張が増しているという。ピュー・リサーチ・センターが行った世論調査では、中国を「敵視」する米国人の割合がこの5年間で大幅に減少していることが示された。ブルームバーグはこれを「関税とは逆行する感情」と捉え、「驚くべき結果」と評価した。

 さらに、TikTokなど海外のSNSにおいて中国の越境ECが注目を集めており、米国の消費者の間で「メイド・イン・チャイナ」への熱狂が再燃している。多くのインフルエンサーが中国のECサイトで購入した商品の開封動画を投稿し、同等品質の商品を十分の一の価格で手に入れられると評している。

 一方で、米ワシントンからは依然として対中対立の姿勢が発せられており、中国と米国の経済関係は危機的状況にある。だが、米国の世論は両国の間のゼロサム的な対立を支持していないという指摘がある。ピューの世論調査は、ワシントンが掲げる関税政策が米国民の意見を反映していない可能性を示唆しており、両国関係の複雑さや多面的性質を単純化して「全面対決」へと転化する姿勢を浮き彫りにしている。

 米中経済には高度な補完性があり、両国の人々の現実的なニーズを無視してまで関税措置を濫用することは、米国および世界経済に混乱と不確実性をもたらしている。この影響は米国市民にも直接的に感じられている。

 中国に対する米国民の認識を誰がどのように形成してきたのかについては再考の余地がある。近年、「中国の脅威」という表現が政治家による対中議論の決まり文句となっており、それにより一部の米国民の態度が影響されているとの分析がある。たとえば、「中国は米国を利用している」「米国は貿易不均衡を是正すべきだ」「米国第一主義のために対中経済封じ込めを進めるべきだ」といったロジックが、関税政策の背後にあるとされている。

 しかし、米中間の経済・貿易協力は双方に莫大な経済的恩恵をもたらしており、米国も中国と同様にその恩恵を受けてきた。米国は中国から大量の消費財、中間財、資本財を輸入しており、自国の製造業やサプライチェーンの発展を支え、消費者の選択肢を拡大し、生活コストを抑え、特に中低所得層の実質購買力を向上させてきた。財とサービスの貿易、そして相互に現地法人を通じた売上高を総合的に考慮すれば、米中貿易から得られる経済的利益は大きく均衡している。このような事実は、虚偽や中傷によって隠蔽されるものではなく、むしろ米中関係が緊張するほど米国内で広く認識される可能性がある。

 カリフォルニア州のギャビン・ニューサム州知事は、関税政策の乱用に対して連邦政府を提訴する方針を発表し、「混乱が続けば米国民の生活が立ち行かなくなる」と述べている。

 米中関係の希望は両国の「民」にあり、その基礎は社会間の繋がりにある。将来は若者に託され、その活力は地域レベルでの交流に起因する。グローバル・タイムズ・インスティチュート(GTI)が2024年に実施した「中米相互認識」に関する世論調査では、両国の回答者の約9割が両国関係に懸念を示しており、大多数が経済貿易交流、人的交流、気候変動分野での協力を支持していることが明らかとなった。

 SNS上における米中両国の民間人による活発なやりとりもまた、ワシントンの政治家による「反中」言論の陰に隠れながらも、両国民の間には平和的共存と協力的関係を求める強い意志が存在することを示している。今後も米国が中国に対して関税による圧力を加え、「デカップリング(経済分断)」を推進するのであれば、有権者による反発は現実的な政治的動向となり、ワシントンに無視できない影響を及ぼす可能性がある。
 
【要点】 

 1.NVIDIA CEOの発言と行動

 ・NVIDIAのジェンスン・フアンCEOが2025年1月に続き再び中国を訪問。

 ・中国市場に引き続きサービスを提供するとの姿勢を表明。

 ・中国を「脅威でなく機会」と位置付け、「分断でなく協力」を強調。

 ・米国政府の輸出規制(H20チップ制限など)に反して、中国市場の重要性を訴えた。

 2.米中経済の相互依存性

 ・中国は巨大な消費市場であり、多様な応用分野と産業基盤を持つ。

 ・NVIDIAの国際競争力は中国企業との協力によって高まったとCEOが評価。

 ・中国市場が米企業の革新・成長のエネルギー源であるという認識が広がっている。

 3.米国内の声と世論の変化

 ・一部の米企業幹部が「政府が道を作るべき」と主張。

 ・保護主義的な政策(関税など)は、米企業に中国との協力の必要性を再認識させた。

 ・ピュー調査では、中国を「敵視」する米国人の割合が過去5年で大きく減少。

 ・ブルームバーグはこの傾向を「驚くべき結果」と分析し、関税感情と逆行すると指摘。

 4.消費者レベルでの中国製品への支持

 ・米国のSNS(TikTokなど)で中国製品の人気が再燃。

 ・越境ECサイトの商品レビューや開封動画が話題に。

 ・米国消費者は品質と価格の両立を高く評価。

 5.政府政策と民意の乖離

 ・ワシントンは依然として対中関係を「危機」と位置付け、強硬姿勢を維持。

 ・しかし、米国世論は全面対立には賛同しておらず、協力重視の姿勢が台頭。

 ・ピューの調査結果は、ワシントンの政策が民意を必ずしも反映していないことを示唆。

 6.米中経済の補完関係と利点

 ・米国は中国から大量の中間財・消費財・資本財を輸入し、物価抑制に貢献。

 ・中低所得層にとって、対中貿易は実質購買力を支える要因。

 ・相互の企業活動(現地法人を通じた売上など)も含めれば、米中間の利益は均衡。

 7.政治とプロパガンダの影響

 ・「中国の脅威」論が米国政治家の常套句となっており、国民の認識形成に影響。

 ・「米国第一」や「対中封じ込め」が関税政策の背後論理とされる。

 ・しかし、実際には米国経済も中国との関係から恩恵を受けている。

 8.州レベルでの反発

 ・カリフォルニア州知事が連邦政府を提訴予定。

 ・関税政策による「混乱は国民生活を困難にする」と警告。

 9.社会・若者・地域間交流の重要性

 ・両国の若者・民間のつながりが関係改善の希望であり基盤。

 ・GTI調査では米中双方の国民が経済・人の往来・気候分野での協力を強く支持。

 ・SNS上でも民間交流が盛んで、政治的敵対とは裏腹に共存意識が存在。

 10.今後の見通し

 ・米政府が今後も対中制裁や経済分断を進めれば、民意と乖離が拡大。

 ・有権者の反発が選挙や政策形成に影響を与える可能性あり。

【引用・参照・底本】

What lies behind Nvidia’s commitment to ‘unswervingly serving the Chinese market’: Global Times editorial GT 2025.04.19
https://www.globaltimes.cn/page/202504/1332424.shtml

19世紀の帝国主義政策と現代のアメリカの対中政策の類似性2025年04月20日 18:20

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【概要】

 歴史の反復と現在の米中貿易戦争との関連を論じるものである。著者はまず、18世紀初頭のインド製織物がヨーロッパにおいて高く評価されていた事実から出発し、それがイギリス帝国によってどのように破壊されたかを描写している。

 当時、インドのモスリンや綿プリントといった織物は「東洋製」としてヨーロッパ上流階級に愛好されていた。これらの製品は単なる美術工芸品ではなく、インドの高度な製造力と経済的実力の象徴であった。

 しかし、イギリスが産業革命を進展させる中で、自国の機械製織物はインドの手工業製品に太刀打ちできなかった。これに対しイギリス政府は、インド製品に対する高関税の課税や輸入禁止といった措置を講じると同時に、自国の製品をインド市場に無関税で流通させる制度を確立した。この結果、インドの職人たちは原材料の調達も困難となり、生計を断たれて農村の貧困層へと転落した。

 これらの動きは、市場原理による自然な競争ではなく、イギリス帝国による軍事力と植民地支配のもとに行われた強制的な経済政策であった。これを歴史学では「脱工業化(deindustrialization)」と呼び、世界史上最も早く、かつ深刻な経済的破壊の一つとされている。

  著者はこの過去の出来事を踏まえ、現在のアメリカが中国に対して行っている関税措置と技術移転制限の動きを重ね合わせている。アメリカは、中国の製造業の台頭に危機感を覚え、自国の製造業を再興させるために中国製品に高関税を課すなどの手段を取っている。しかし著者によれば、こうしたアプローチは19世紀の帝国的な考えに基づいたものであり、今日のグローバル経済の現実とは適合しないという。

 19世紀のイギリスは圧倒的な軍事力と植民地支配によって自国の経済政策を強行することができたが、現代の中国は主権国家であり、世界のサプライチェーンと技術進歩の中核を成す存在である。
 
 また、現代の経済は国家間の相互依存性が極めて高く、一国のみの政策で他国を意のままに支配することは困難である。米中は単なるライバルではなく、競争と協力の双方を含む関係にあり、互いに切り離すことのできない存在である。

 著者は、アメリカが中国の製造業を意図的に弱体化させることで自国の優位性を取り戻そうとする政策は、帝国的な過去への郷愁に基づいたものであり、それは幻想に過ぎないと指摘している。歴史の再現によって過去の地位を取り戻すことはできず、むしろ国際社会の変化に即した新たな協調のあり方が求められていると結論づけている。

 本稿は、歴史を単なる再現の対象ではなく、現在と未来を理解するための鏡として捉えるべきであるとし、ゼロサム的思考ではなく開かれた協力こそが、今後の世界秩序を形作るべきであると訴えている。

 著者は人民日報の上級編集者であり、現在は中国人民大学重陽金融研究院のシニアフェローでもある。

【詳細】

 アメリカが現在展開する対中貿易政策、特に高関税措置と技術移転の制限措置を、19世紀にイギリスがインドに対して行った植民地主義的な経済政策と対比する構造となっている。著者は、歴史が完全に繰り返されることは稀であると認めつつも、現代の動きの中に過去の反響が強く聞こえてくると述べ、17世紀末から18世紀初頭のインドの状況を起点として論を展開する。

 当時、インドは綿織物の製造において世界をリードしており、特にモスリンやプリント布といった精緻な織物は「Made in the East(東洋製)」として高い評価を受けていた。これらは単なる装飾品ではなく、熟練した手工業によって生み出されたものであり、インドの工芸技術と経済的成熟度の象徴であった。

 しかし、イギリスが産業革命により自国の機械製織物の生産能力を拡大するなかで、インド製織物は競争相手となった。イギリス政府はその対抗措置として、インド製品に対する高率の関税を課すだけでなく、一部製品については輸入そのものを禁止した。このようにして、イギリス市場からインド製品を排除すると同時に、インド市場に対しては逆に自国製品を無関税で流入させる仕組みを構築した。これは、イギリスが帝国としてインドを直接支配下に置いていたために可能であった。

 この経済政策の結果、インドの伝統的な職人たちは致命的な打撃を受けた。まず、原材料である綿の調達に制限がかけられ、製造コストが高騰した。そのうえで、イギリスから流入する安価な機械製織物との競争に敗れ、事業を継続できなくなった職人が多数発生した。多くの人々が代々継承してきた工芸の技を捨て、農村部の貧困層として生活を余儀なくされるに至った。

 著者はこの過程を「市場の見えざる手」ではなく、「帝国の鉄拳」であると表現している。イギリス帝国は、自由貿易や法の支配といった名目を掲げながら、実際には軍事力と植民地支配によってインドの産業を意図的に解体し、自国の産業に有利な経済秩序を強制した。この事例は、現在歴史学の分野で「脱工業化(deindustrialization)」と呼ばれており、世界で最初期かつ最も深刻な工業力の喪失事例とされている。

 この歴史的事例と、現代の米中関係との類似性に焦点を当てるのが本稿の主眼である。著者は、現在のアメリカが中国の製造業の成長に対して危機感を抱き、高関税措置や技術移転制限によってそれを抑制しようと試みていると分析している。こうした施策は、中国の製造力を弱体化させることで、アメリカがかつて享受していた製造業の優位性を取り戻そうとするものであるとされる。

 しかし、著者によれば、こうしたアプローチは19世紀の帝国主義的思考の焼き直しに過ぎず、現代の国際社会の構造にはそぐわない。すなわち、19世紀のインドは植民地であり、イギリスの一方的な支配を受ける立場であったのに対し、現代の中国は主権国家であり、世界経済の不可欠な一部である。中国は世界のサプライチェーンにおいて中核的役割を担っており、多くの国々が中国との経済的つながりを有している。

 また、米中は単なる競争関係にあるのではなく、複雑に絡み合う協力関係にもある。どちらかが他方を一方的に排除することは、もはや現実的ではない。アメリカが「ゼロサム的」な思考、すなわち「自国の復興は他国の弱体化を通じてしか実現し得ない」とする発想に基づき、政策を策定しているとすれば、それは過去の帝国主義的幻想に基づく誤った道筋であると指摘している。

 著者は結びにおいて、歴史は繰り返される台本ではなく、現在と未来を理解するための「鏡」であると述べている。従って、過去の手法を再現することでかつての覇権を取り戻そうとするのではなく、相互依存と協調による新たな秩序を模索すべきであると論じている。

 このように、本稿はインドの脱工業化の歴史を引き合いに出しつつ、現代の米中関係における経済的衝突の構造的相違を明らかにし、帝国的発想に基づく政策が現代においてはもはや通用しないことを指摘するものである。
 
【要点】 

 歴史的背景の導入

 ・19世紀初頭のインドは、綿織物(モスリンなど)の製造で世界有数の地位にあった。

 ・「Made in the East」として西洋諸国でも高く評価された。

 イギリスの植民地政策

 ・イギリスは自国の産業保護のため、インド製品に高関税や輸入禁止措置を課した。

 ・同時にイギリス製品はインド市場へ無関税で流入。

 ・これにより、インドの伝統工業は急速に衰退。

 脱工業化(deindustrialization)

 ・職人は原材料供給の制限や価格競争で淘汰され、農村の貧困層へ転落。

 ・インド経済の構造そのものが破壊された。

 ・これは「市場の見えざる手」ではなく、「帝国の鉄拳」による結果とされる。

 アメリカの現代政策との対比

 ・アメリカは現在、中国の製造業の台頭を抑えるために高関税や技術制限を実施。

 ・これはかつてのイギリスの植民地主義的手法に類似していると指摘。

 著者の主張

 ・中国は主権国家であり、当時のインドとは全く異なる立場にある。

 ・中国は世界のサプライチェーンで不可欠な存在。

 ・アメリカが中国の製造業を封じ込めようとするのは非現実的であり、歴史的幻想に過ぎない。

 結論

 ・歴史は台本ではなく「鏡」であり、過去の手法の焼き直しでは未来を切り開けない。

 ・対立ではなく、協調による国際秩序の構築が求められる。

 このように、Ding氏は19世紀の帝国主義政策と現代のアメリカの対中政策の類似性を指摘しつつ、両者の構造的な相違と現実的限界を強調している。

【引用・参照・底本】

Replaying 19th century tariff wars to restore American dominance is an illusion GT 2025.04.18
https://www.globaltimes.cn/page/202504/1332403.shtml