中国の極超音速推進技術の新たな進展 ― 2025年03月31日 13:40
【概要】
中国の研究者が極超音速飛行の推進技術に関する新たな進展を発表した。北京航空航天大学(Beihang University)のang Qingchun准教授が率いる研究チームは、スクラムジェットエンジンの推力をほぼ2倍に向上させる革新的な二次燃焼技術を開発した。この技術は、従来のジェット燃料の燃焼によって生じる排気ガスにマグネシウム粉末を注入することで実現される。
この新しいアフターバーナー技術は、マッハ6の飛行条件(高度30km)を模擬した環境で試験が行われた。その結果、推力の大幅な増強が確認され、中国の極超音速技術における優位性をさらに強化する可能性が示された。この技術の応用により、次世代兵器や航空機の速度向上、機動性の向上、航続距離の延長が期待される。
従来のスクラムジェットエンジンは、極超音速域でのエネルギー出力が限界に達するという課題を抱えており、また、低速時の着火が不安定になることがある。これに対し、研究チームは化学的に高い反応性を持つマグネシウムに着目した。
彼らの手法では、燃焼後の排気ガスに含まれる水蒸気や二酸化炭素を酸化剤として利用し、マグネシウム粒子を燃焼させることで二次燃焼を実現する。研究チームが学術誌『Acta Aeronautica et Astronautica Sinica』に発表した論文によると、マグネシウムは大気中の酸素を必要とせず、排気ガスに含まれる成分と反応することで強力なエネルギーを発生させる。この技術により、これまで排出されていた排熱を有効活用し、エンジンの総合的な推力を向上させることが可能となる。
【詳細】
中国における極超音速推進技術の新たな進展:マグネシウムを用いた二次燃焼による推力増強
中国の研究者が、極超音速飛行におけるスクラムジェットエンジンの推力を飛躍的に向上させる新たな技術を開発した。この技術は、マグネシウム粉末を利用した二次燃焼方式によるものであり、従来のスクラムジェットの限界を超える可能性を秘めている。研究を主導したのは北京航空航天大学(Beihang University)のYang Qingchun准教授率いるチームであり、開発成果は2025年2月に学術誌『Acta Aeronautica et Astronautica Sinica』に掲載された。
1. 極超音速スクラムジェットエンジンの課題と新技術の意義
スクラムジェット(Supersonic Combustion Ramjet)は、超音速以上の速度域で効率的に作動するエンジンであり、極超音速飛行(マッハ5以上)を実現するために不可欠な技術である。しかし、従来のスクラムジェットには以下のような課題が存在する。
(1)燃料のエネルギー限界
スクラムジェットは通常、ジェット燃料(ケロシン)を燃焼させることで推進力を得る。しかし、極超音速域では燃焼効率が頭打ちになり、追加の推力を確保することが難しくなる。
(2)低速時の不安定な着火
スクラムジェットは大気中の酸素を利用するが、低速域では燃料の着火が困難になり、安定した燃焼を維持しにくい。
(3)排気ガスのエネルギーロス
燃焼によって生じた排気ガスには、依然として高温の水蒸気や二酸化炭素が含まれており、これらのエネルギーを有効に活用する手段が求められていた。
これらの問題を解決するために、楊清春准教授の研究チームはマグネシウム粉末を用いた二次燃焼技術を考案した。
2. マグネシウム粉末を利用した二次燃焼の仕組み
研究チームが開発したアフターバーナー技術では、従来の燃料燃焼後の排気ガスにマグネシウム粉末を注入し、化学反応を利用してさらなる推力を生み出す。
(1)マグネシウムの特性と活用方法
マグネシウム(Mg)は非常に反応性の高い金属であり、特に酸素や二酸化炭素、水蒸気と反応することで強力な燃焼を起こす。
・マグネシウムは大気中の酸素を必要とせず、水蒸気(H₂O)や二酸化炭素(CO₂)と反応することでエネルギーを発生させる。
・その結果、従来は未活用のまま排出されていた排気ガスのエネルギーを利用して追加の燃焼を引き起こすことが可能となる。
この反応によって生じる熱エネルギーは、従来のスクラムジェットよりも高い推力を発生させる。
(2)化学反応の概要
二次燃焼では、以下のような化学反応が利用される。
(a)マグネシウムと水蒸気の反応
・水蒸気と反応して酸化マグネシウム(MgO)を生成し、同時に水素(H₂)を放出する。
・生成された水素はさらに燃焼することで追加のエネルギーを生じる。
(b)マグネシウムと二酸化炭素の反応
・二酸化炭素(CO₂)と反応して酸化マグネシウム(MgO)と炭素(C)を生成し、熱を放出する。
このように、通常は未活用のまま排気される水蒸気や二酸化炭素を利用することで、エネルギー効率を大幅に向上させることができる。
3. 実験結果と技術の応用可能性
研究チームは、マッハ6(時速約7,400 km)の飛行条件を模擬した環境(高度30km相当)でこの技術を試験した。その結果、スクラムジェットエンジンの推力が従来の約2倍に増加したことが確認された。
この成果により、中国の極超音速技術は以下の点で大きく前進する可能性がある。
(1)極超音速飛行の速度向上
・現在の極超音速兵器や航空機はマッハ5~6の速度域が限界とされているが、本技術によりさらなる高速化が期待できる。
(2)機動性の向上
・推力が増大することで、飛行中の機動性が高まり、迎撃を回避しやすくなる。
(3)航続距離の延長
・より少ない燃料で長距離飛行が可能になり、戦略的な運用の幅が広がる。
(4)スクラムジェットの実用化推進
・従来のスクラムジェットはエネルギー効率の問題で実用化が制限されていたが、本技術により実用レベルの飛行が可能になる。
4. 今後の展望
本技術は、中国の極超音速ミサイルや次世代戦闘機、無人偵察機などに応用される可能性が高い。また、極超音速旅客機の開発にも寄与する可能性がある。
ただし、マグネシウムを燃料として安定的に供給・制御する技術や、エンジン内部の耐熱材料の開発など、実用化に向けた課題も残されている。今後、さらなる実証実験を重ねることで、本技術の実戦配備が進むと考えられる。
【要点】
中国の極超音速推進技術の新たな進展:マグネシウムを用いた二次燃焼
1. 研究の概要
・開発者:北京航空航天大学(Beihang University)のYang Qingchun准教授率いる研究チーム
・発表媒体:2025年2月、『Acta Aeronautica et Astronautica Sinica』
・技術の特徴:スクラムジェットエンジンの二次燃焼にマグネシウム粉末を利用し、推力を約2倍に増強
2. スクラムジェットエンジンの課題
(1)燃料のエネルギー限界
・ケロシン燃料の燃焼効率が極超音速域では頭打ちになる
(2)低速時の不安定な着火
・低速での着火が難しく、燃焼の安定性が低い
(3)排気ガスのエネルギーロス
・燃焼後の水蒸気や二酸化炭素が未活用のまま排出される
3. マグネシウム粉末を利用した二次燃焼の仕組み
(1)マグネシウムの特性
・大気中の酸素を必要とせず、水蒸気(H₂O)や二酸化炭素(CO₂)と反応可能
・燃焼時に高温の熱エネルギーを放出
(2)主要な化学反応
・マグネシウムと水蒸気の反応
⇨ 水蒸気と反応し、酸化マグネシウム(MgO)と水素(H₂)を生成
⇨ 水素が燃焼し、さらなる熱エネルギーを発生
・マグネシウムと二酸化炭素の反応
⇨ 二酸化炭素と反応し、酸化マグネシウム(MgO)と炭素(C)を生成
⇨ 強力な燃焼エネルギーを生み出す
4. 実験結果
・飛行条件:マッハ6(時速約7,400km)、高度30km相当
・推力の向上:従来のスクラムジェットエンジンの約2倍の推力を実現
5. 技術の応用可能性
(1)極超音速飛行の速度向上
・マッハ5~6以上の速度域での飛行が可能に
(2)機動性の向上
・迎撃を回避しやすくなる
(3)航続距離の延長
・燃料効率向上により、長距離飛行が可能に
(4)スクラムジェットの実用化推進
・エネルギー効率の向上により、実用レベルの飛行技術が確立
6. 今後の課題と展望
(1)課題
・マグネシウム粉末の安定供給・制御技術の確立
・エンジン内部の耐熱材料の開発
(2)期待される応用分野
・極超音速ミサイル
・次世代戦闘機
・無人偵察機
・極超音速旅客機
今後、さらなる実証実験が進められ、実用化が加速すると考えられる。
【引用・参照・底本】
China tests a hypersonic afterburner, doubling thrust at Mach 6 scmp 2025.03.24
https://www.scmp.com/news/china/science/article/3303283/china-tests-hypersonic-afterburner-doubling-thrust-mach-6?utm_medium=email&utm_source=cm&utm_campaign=enlz-focus_sea_ru&utm_content=20250328&tpcc=enlz-focus_sea&UUID=5147fda4-c483-4061-b936-ccd0eb7929aa&tc=21
中国の研究者が極超音速飛行の推進技術に関する新たな進展を発表した。北京航空航天大学(Beihang University)のang Qingchun准教授が率いる研究チームは、スクラムジェットエンジンの推力をほぼ2倍に向上させる革新的な二次燃焼技術を開発した。この技術は、従来のジェット燃料の燃焼によって生じる排気ガスにマグネシウム粉末を注入することで実現される。
この新しいアフターバーナー技術は、マッハ6の飛行条件(高度30km)を模擬した環境で試験が行われた。その結果、推力の大幅な増強が確認され、中国の極超音速技術における優位性をさらに強化する可能性が示された。この技術の応用により、次世代兵器や航空機の速度向上、機動性の向上、航続距離の延長が期待される。
従来のスクラムジェットエンジンは、極超音速域でのエネルギー出力が限界に達するという課題を抱えており、また、低速時の着火が不安定になることがある。これに対し、研究チームは化学的に高い反応性を持つマグネシウムに着目した。
彼らの手法では、燃焼後の排気ガスに含まれる水蒸気や二酸化炭素を酸化剤として利用し、マグネシウム粒子を燃焼させることで二次燃焼を実現する。研究チームが学術誌『Acta Aeronautica et Astronautica Sinica』に発表した論文によると、マグネシウムは大気中の酸素を必要とせず、排気ガスに含まれる成分と反応することで強力なエネルギーを発生させる。この技術により、これまで排出されていた排熱を有効活用し、エンジンの総合的な推力を向上させることが可能となる。
【詳細】
中国における極超音速推進技術の新たな進展:マグネシウムを用いた二次燃焼による推力増強
中国の研究者が、極超音速飛行におけるスクラムジェットエンジンの推力を飛躍的に向上させる新たな技術を開発した。この技術は、マグネシウム粉末を利用した二次燃焼方式によるものであり、従来のスクラムジェットの限界を超える可能性を秘めている。研究を主導したのは北京航空航天大学(Beihang University)のYang Qingchun准教授率いるチームであり、開発成果は2025年2月に学術誌『Acta Aeronautica et Astronautica Sinica』に掲載された。
1. 極超音速スクラムジェットエンジンの課題と新技術の意義
スクラムジェット(Supersonic Combustion Ramjet)は、超音速以上の速度域で効率的に作動するエンジンであり、極超音速飛行(マッハ5以上)を実現するために不可欠な技術である。しかし、従来のスクラムジェットには以下のような課題が存在する。
(1)燃料のエネルギー限界
スクラムジェットは通常、ジェット燃料(ケロシン)を燃焼させることで推進力を得る。しかし、極超音速域では燃焼効率が頭打ちになり、追加の推力を確保することが難しくなる。
(2)低速時の不安定な着火
スクラムジェットは大気中の酸素を利用するが、低速域では燃料の着火が困難になり、安定した燃焼を維持しにくい。
(3)排気ガスのエネルギーロス
燃焼によって生じた排気ガスには、依然として高温の水蒸気や二酸化炭素が含まれており、これらのエネルギーを有効に活用する手段が求められていた。
これらの問題を解決するために、楊清春准教授の研究チームはマグネシウム粉末を用いた二次燃焼技術を考案した。
2. マグネシウム粉末を利用した二次燃焼の仕組み
研究チームが開発したアフターバーナー技術では、従来の燃料燃焼後の排気ガスにマグネシウム粉末を注入し、化学反応を利用してさらなる推力を生み出す。
(1)マグネシウムの特性と活用方法
マグネシウム(Mg)は非常に反応性の高い金属であり、特に酸素や二酸化炭素、水蒸気と反応することで強力な燃焼を起こす。
・マグネシウムは大気中の酸素を必要とせず、水蒸気(H₂O)や二酸化炭素(CO₂)と反応することでエネルギーを発生させる。
・その結果、従来は未活用のまま排出されていた排気ガスのエネルギーを利用して追加の燃焼を引き起こすことが可能となる。
この反応によって生じる熱エネルギーは、従来のスクラムジェットよりも高い推力を発生させる。
(2)化学反応の概要
二次燃焼では、以下のような化学反応が利用される。
(a)マグネシウムと水蒸気の反応
・水蒸気と反応して酸化マグネシウム(MgO)を生成し、同時に水素(H₂)を放出する。
・生成された水素はさらに燃焼することで追加のエネルギーを生じる。
(b)マグネシウムと二酸化炭素の反応
・二酸化炭素(CO₂)と反応して酸化マグネシウム(MgO)と炭素(C)を生成し、熱を放出する。
このように、通常は未活用のまま排気される水蒸気や二酸化炭素を利用することで、エネルギー効率を大幅に向上させることができる。
3. 実験結果と技術の応用可能性
研究チームは、マッハ6(時速約7,400 km)の飛行条件を模擬した環境(高度30km相当)でこの技術を試験した。その結果、スクラムジェットエンジンの推力が従来の約2倍に増加したことが確認された。
この成果により、中国の極超音速技術は以下の点で大きく前進する可能性がある。
(1)極超音速飛行の速度向上
・現在の極超音速兵器や航空機はマッハ5~6の速度域が限界とされているが、本技術によりさらなる高速化が期待できる。
(2)機動性の向上
・推力が増大することで、飛行中の機動性が高まり、迎撃を回避しやすくなる。
(3)航続距離の延長
・より少ない燃料で長距離飛行が可能になり、戦略的な運用の幅が広がる。
(4)スクラムジェットの実用化推進
・従来のスクラムジェットはエネルギー効率の問題で実用化が制限されていたが、本技術により実用レベルの飛行が可能になる。
4. 今後の展望
本技術は、中国の極超音速ミサイルや次世代戦闘機、無人偵察機などに応用される可能性が高い。また、極超音速旅客機の開発にも寄与する可能性がある。
ただし、マグネシウムを燃料として安定的に供給・制御する技術や、エンジン内部の耐熱材料の開発など、実用化に向けた課題も残されている。今後、さらなる実証実験を重ねることで、本技術の実戦配備が進むと考えられる。
【要点】
中国の極超音速推進技術の新たな進展:マグネシウムを用いた二次燃焼
1. 研究の概要
・開発者:北京航空航天大学(Beihang University)のYang Qingchun准教授率いる研究チーム
・発表媒体:2025年2月、『Acta Aeronautica et Astronautica Sinica』
・技術の特徴:スクラムジェットエンジンの二次燃焼にマグネシウム粉末を利用し、推力を約2倍に増強
2. スクラムジェットエンジンの課題
(1)燃料のエネルギー限界
・ケロシン燃料の燃焼効率が極超音速域では頭打ちになる
(2)低速時の不安定な着火
・低速での着火が難しく、燃焼の安定性が低い
(3)排気ガスのエネルギーロス
・燃焼後の水蒸気や二酸化炭素が未活用のまま排出される
3. マグネシウム粉末を利用した二次燃焼の仕組み
(1)マグネシウムの特性
・大気中の酸素を必要とせず、水蒸気(H₂O)や二酸化炭素(CO₂)と反応可能
・燃焼時に高温の熱エネルギーを放出
(2)主要な化学反応
・マグネシウムと水蒸気の反応
⇨ 水蒸気と反応し、酸化マグネシウム(MgO)と水素(H₂)を生成
⇨ 水素が燃焼し、さらなる熱エネルギーを発生
・マグネシウムと二酸化炭素の反応
⇨ 二酸化炭素と反応し、酸化マグネシウム(MgO)と炭素(C)を生成
⇨ 強力な燃焼エネルギーを生み出す
4. 実験結果
・飛行条件:マッハ6(時速約7,400km)、高度30km相当
・推力の向上:従来のスクラムジェットエンジンの約2倍の推力を実現
5. 技術の応用可能性
(1)極超音速飛行の速度向上
・マッハ5~6以上の速度域での飛行が可能に
(2)機動性の向上
・迎撃を回避しやすくなる
(3)航続距離の延長
・燃料効率向上により、長距離飛行が可能に
(4)スクラムジェットの実用化推進
・エネルギー効率の向上により、実用レベルの飛行技術が確立
6. 今後の課題と展望
(1)課題
・マグネシウム粉末の安定供給・制御技術の確立
・エンジン内部の耐熱材料の開発
(2)期待される応用分野
・極超音速ミサイル
・次世代戦闘機
・無人偵察機
・極超音速旅客機
今後、さらなる実証実験が進められ、実用化が加速すると考えられる。
【引用・参照・底本】
China tests a hypersonic afterburner, doubling thrust at Mach 6 scmp 2025.03.24
https://www.scmp.com/news/china/science/article/3303283/china-tests-hypersonic-afterburner-doubling-thrust-mach-6?utm_medium=email&utm_source=cm&utm_campaign=enlz-focus_sea_ru&utm_content=20250328&tpcc=enlz-focus_sea&UUID=5147fda4-c483-4061-b936-ccd0eb7929aa&tc=21