ハンガリーとセルビアの異なる立場2024年11月03日 17:21

Microsoft Designerで作成
【概要】

 ハンガリーとセルビアの異なる立場が、ウクライナ戦争における軍事的な中立性や西側諸国との関係にどのような影響を与えているかについて説明している。

 まず、ハンガリーの立場について説明されている。ハンガリーの首相ヴィクトル・オルバンの首席補佐官であるゲルゲイ・グヤーシュ氏が、外国の諜報機関(NATO加盟国を含む)が、ハンガリーが購入した武器や弾薬をウクライナやアフリカに転送しようとする計画があったが、それが阻止されたと発表した。これらの武器や弾薬がウクライナやアフリカで使われることで、間接的または直接的にロシアに対抗する意図があったとしている。しかしハンガリーは、EUによる対ロシア制裁には賛同しているものの、NATOとロシアの間の新冷戦においては軍事的に中立の立場を維持していると主張している。

 一方で、セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ大統領は、2023年夏に他国がセルビアから購入した弾薬をウクライナへ転送することに反対しない姿勢を示した。これは、春の「ペンタゴン・リーク」(機密文書の漏洩)でセルビアがウクライナに武器を供給しているという疑惑が報じられたことを受けたもので、セルビア政府はそれを否定した。しかしヴチッチ大統領の発言により、その軍事的中立性への疑念が再燃した。この記事は、セルビアが実質的には軍事的に中立ではないとしており、それでもなおロシアとの関係には大きな影響を与えていないとしている。

 また、ハンガリーがNATOおよびEU加盟国であるのに対し、セルビアは加盟しておらず、西側諸国の対ロシア制裁にも参加していない。そのため、セルビアは西側諸国と比較的円滑な関係を保ちながらも、ロシアとの友好関係も維持していると説明されている。

 ハンガリーに関しては、オルバン首相がウクライナ戦争における仲介役を果たすことを目指している点が注目されている。彼は最近、ウクライナやロシア、中国、米国(ドナルド・トランプ氏とも面会)を訪問しており、この「シャトル外交」によって和平仲介の立場を確保しようとしているとされている。しかし、この動きは他の欧州の指導者から反発を受けており、欧州内での緊張が生じている。

 さらに、一部の外国の諜報機関がハンガリーから購入された武器や弾薬を意図的にウクライナやアフリカへ転送することで、オルバン首相の仲介役としての信頼性を傷つけようとした可能性が指摘されている。
 
【詳細】

 この記事では、ハンガリーとセルビアがウクライナ戦争に対して異なる態度を取っていることが、どのようにして西側諸国の反応やロシアとの関係性に影響を与えているのか、さらに詳しく掘り下げている。以下に詳しく説明する。

 1. ハンガリーの軍事的中立

 ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相は、西側諸国の対ロシア制裁には賛同しつつも、ウクライナ戦争における軍事的中立の立場を保っている。この背景には、オルバン政権がロシアとの経済関係を重視していること、ならびにウクライナ戦争に直接関与することを避けたいという姿勢があると考えられる。

 オルバンの首席補佐官ゲルゲイ・グヤーシュ氏によると、ハンガリー国内で購入された武器や弾薬をウクライナやアフリカに転送し、ロシアに対抗する意図を持つ一部の外国諜報機関がいたことが判明した。これらの諜報機関は、ハンガリーがEU・NATO加盟国でありながら軍事的中立を維持している点を問題視し、これを破壊しようとしたと見られる。ハンガリーがこうした動きを察知し阻止したことにより、オルバンの軍事的中立の姿勢が再確認された。

 2. オルバン首相の仲介努力と西側諸国の反発

 オルバン首相は、ウクライナ戦争の和平に向けた仲介者としての役割を果たす意向を示しており、2024年夏にはウクライナ、ロシア、中国、米国などの国々を訪問し「シャトル外交」を展開した。特に米国では、次期大統領選の候補であるドナルド・トランプ氏と会談するなどして、和平に向けた話し合いを行ったとされている。

 しかし、この動きに対して欧州の他の指導者たちは激しく反発している。欧州諸国は、ウクライナ戦争を通じてロシアに圧力をかけ続ける戦略を支持しており、オルバンの和平仲介はその戦略に反するものと見なされているためである。特に、オルバンがEU理事会の議長職にある点も問題視されており、彼が自身の立場を利用して「不当な正当性」を得ていると批判されている。

 欧州の指導者たちは、オルバンの和平仲介の動きを「軽視」あるいは「無視」するだけでなく、反対に軍事的な圧力を強める意図があることを示唆している。この記事によれば、西側諸国の一部諜報機関がハンガリーから購入された武器を意図的にウクライナやアフリカへ送ろうとした背景には、オルバンの仲介者としての信用を失墜させる意図があった可能性がある。彼の仲介努力を不誠実なものとして描き、ロシア側に不信感を抱かせようとする狙いがあるとされている。

 3. セルビアの立場:経済的中立と軍事的曖昧さ

 セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ大統領は、セルビアが軍事的には中立であると主張しているものの、ウクライナ戦争に関連する武器供給においては曖昧な態度を取っている。2023年のペンタゴン・リークでは、セルビアがウクライナに武器を供給しているとの情報が流出したが、セルビア政府はこれを否定した。しかし、ヴチッチ大統領はその後、他国がセルビアから購入した弾薬をウクライナに送ることに反対しない姿勢を示している。この発言によって、セルビアが完全な軍事的中立を保っているかどうかに疑念が生じている。

 記事によれば、セルビアは形式上は西側制裁には参加していないものの、実際には軍事的に中立ではないという指摘がなされている。しかし、セルビアのこの立場にもかかわらず、ロシアとの関係は大きな影響を受けていないとされている。西側諸国も、セルビアに対しては一部の政治的圧力をかけたものの、それは「半端な」ものであり、2023年夏には色革命的な圧力があったとされるものの、ヴチッチ自身もフランス製の戦闘機購入などを進め、圧力をそれほど深刻に受け止めていないと見られている。

 4. 欧州内の複雑な対立構図

 この記事は、欧州諸国が抱える対ロシア戦略に対する内部分裂を示している。ハンガリーのような軍事的中立を保つ姿勢は、西側の戦争遂行に対する姿勢と真っ向から対立している。一方、セルビアは経済的に中立を保ちながらも軍事的には曖昧な姿勢を取っており、西側諸国からの圧力は限定的であると述べられている。

 最終的に、ハンガリーがNATOとEUの一員でありながら軍事的中立を維持することが、西側諸国にとって最大の懸念事項であると記事は結論づけている。

【要点】

 1ハンガリーの立場

 ・ハンガリーは対ロシア制裁には賛同しつつも、軍事的には中立を保ち、ウクライナ戦争への関与を避けている。
 ・ハンガリー政府は、外国の諜報機関が同国の購入した武器や弾薬をウクライナやアフリカに転送し、ロシアに対抗するために使用する計画を阻止した。
 ・オルバン首相は和平仲介者としての役割を果たす意向を示し、夏にはウクライナ、ロシア、中国、米国を訪問して「シャトル外交」を行ったが、これに対して欧州の指導者から反発を受けた。

 2.セルビアの立場

 ・セルビアは西側の対ロシア制裁には参加していないが、ウクライナ戦争に関しては軍事的に中立ではないとされる。
 ・2023年の「ペンタゴン・リーク」ではセルビアがウクライナに武器を供給していると報じられ、ヴチッチ大統領は他国がセルビアから購入した弾薬をウクライナに転送することに反対しない姿勢を示した。
 ・ロシアとの関係には大きな影響を与えず、西側からの圧力も限定的で、セルビアはその後フランス製戦闘機を購入している。

 3.西側諸国の反応とハンガリーへの圧力

 ・一部の外国諜報機関は、ハンガリーが購入した武器や弾薬をウクライナやアフリカに送ることで、オルバンの仲介者としての信頼を傷つけようとした可能性がある。
 ・欧州の指導者たちは、オルバンがEU理事会の議長職を利用し、和平仲介において「不当な正当性」を得ようとしていると批判している。

 4.セルビアとハンガリーの違い

 ・ハンガリーの軍事的中立は西側諸国にとって大きな懸念事項であり、セルビアの経済的中立に対する反発よりも強い。
 ・セルビアは軍事的中立を完全には保っていないが、西側諸国との関係には大きな影響がないとされている。
 
【引用・参照・底本】

Hungary Won’t Let Its Arms & Ammo Be Used Against Russia Unlike Serbia Andrew Korybko's Newsletter 2024.11.03
https://korybko.substack.com/p/hungary-wont-let-its-arms-and-ammo?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=151094337&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

ロシアの中東政策に関する誤解を訂正2024年11月03日 19:28

Microsoft Designerで作成
【概要】

 アンドリュー・コリブコが2024年11月2日に発表したもので、アメリカのメディア「Newsweek」がロシアの中東政策に関する誤解を訂正したという内容を解説している。コリブコは、米国メディアと代替メディア(AMC)が、ロシアの中東政策を反イスラエル的であるとする誤解を助長してきたと指摘し、「Newsweek」がこれを修正する記事を公開したことが驚くべき進展だと述べている。

 Newsweekの記事「At War in Ukraine, Putin Emerges as Potential Peace Broker in Middle East」は、元イスラエル副国家安全保障顧問であり現在はイスラエル国立安全保障研究所の上級研究員であるオルナ・ミズラヒのコメントを引用している。彼女は、イランとの良好な関係を築いているロシアが、中東地域での安定に貢献する可能性を持つと述べ、国連安全保障理事会の新たな決議においてロシアの支持を望む意向も示している。また、ロシアはイスラエルの軍事力を高く評価しており、イスラエルのシリアに対する攻撃に干渉していないと述べている。

 さらにコリブコは、ロシアの中東政策の背景として以下の要点を示している。

 1.ロシアは10月7日の事件をテロ攻撃とし、すべての人質、特にロシア-イスラエルの二重国籍者の解放を望んでいる。
 2.しかし、ロシアはパレスチナ人への集団的な懲罰と見なされるイスラエルの対応も非難している。
 3.ロシアはパレスチナ独立国家の設立を支持し、イスラエルと共に平和に共存することを望んでいる。
 4.ロシアはイスラエルに対する一方的な制裁に反対している。

 イスラエル側も、ロシアのこのバランスの取れた政策を評価しており、ウクライナに対する武器提供やロシアに対する制裁を避ける形で応えている。コリブコは、この実用的な関係がプーチンとイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相との「緊密で個人的な関係」に基づいていることを指摘している。

 Newsweekの記事の意義は、こうしたロシアの政策に対する誤解を訂正し、ロシアが国際的に無責任であるとするイメージを払拭する点にある。現在、イランやヒズボラ、ハマス、フーシ派などの組織は、対イスラエルのメディエーターとしてロシアを信頼しているが、これにはアメリカも状況に応じてロシアの関与を認めざるを得ないと見られている。

 ロシアが中東での仲介役を果たすことが認められれば、アメリカもウクライナ情勢においてロシアとの妥協を迫られる可能性があるとし、Newsweekの記事はアメリカ世論のロシアに対する見方を正す長いプロセスの始まりであるとコリブコは示唆している。
 
【詳細】

 米メディア「Newsweek」が、ロシアの中東に対する政策に関して広まっている誤解を訂正する記事を発表したことを受けて、アンドリュー・コリブコがその意義を詳述している。具体的には、米国の主流メディア(MSM)と代替メディア(AMC)が、それぞれの政治的目的のためにロシアの政策を反イスラエル的に描写してきたと指摘し、Newsweekの記事がそのような偏見を正す動きであると評価している。

 Newsweek記事の概要と引用

 Newsweekの記事「At War in Ukraine, Putin Emerges as Potential Peace Broker in Middle East」では、元イスラエル副国家安全保障顧問のオルナ・ミズラヒ氏のコメントが重要な要素となっている。ミズラヒ氏は、現在イスラエル国立安全保障研究所で上級研究員を務めており、彼女の発言は専門的な見地から信頼できるものとされている。彼女は以下のように述べている。

 ・イランとの関係に基づくロシアの役割:ミズラヒ氏は、ロシアが現在イランと非常に良好な関係を持っているため、中東地域の安定に貢献する役割を果たせる可能性があると述べている。特に、ヒズボラへの武器流入を制限するための新たな国連安全保障理事会決議が検討されている場合に、ロシアの支持が重要であるとしている。

 イスラエルに対するロシアの評価:ミズラヒ氏は、ロシアがイスラエルの軍事能力を高く評価しており、そのためシリアでのイスラエルの空爆に対して妨害行動を取らず、黙認していると述べている。ロシアがシリアに供与したS-300ミサイルシステムをイスラエル攻撃に使用させていないことも、その証左とされている。

 ロシアの中東政策の背景

 コリブコは、ロシアの中東政策を理解するために、過去の主張や出来事をいくつか挙げ、以下のようなポイントを強調している。

 1.テロ事件と人質問題への対応:ロシアは2023年10月7日に発生したテロ事件を非難し、すべての人質の解放、特にロシア・イスラエルの二重国籍者の解放を望んでいる。

 2.イスラエルのパレスチナ対応に対する批判:ロシアは、イスラエルによるパレスチナへの「集団的懲罰」を非難しているが、一方で、国連安全保障理事会の決議に基づき、パレスチナ独立国家の設立を支持している。ただし、パレスチナがイスラエルと平和に共存することを求めており、どちらかに偏らないバランスの取れた政策を志向している。

 3.制裁への反対:ロシアはイスラエルに対する一方的な制裁には反対しており、この点でもイスラエルと合意しています。これは、イスラエルがロシアに対してウクライナ支援や制裁措置を行わない「非公式の取引」にもつながっています。

 プーチンとネタニヤフの「緊密な関係」

 コリブコはまた、ロシアとイスラエルの関係を支えるのは、プーチン大統領とイスラエルのネタニヤフ首相の「緊密で個人的な関係」であると指摘している。この関係により、両国は一種の暗黙の了解のもとで協力を続けており、ロシアが中東でのバランスの取れた立場を保つ一因となっている。

 Newsweek記事の意義とその影響

 Newsweekの記事の重要な意義として、ロシアが「無責任な国際行動を取っている」という偏見が訂正され、イスラエルや中東での仲介者としての役割が再評価されることが挙げられる。コリブコは、アメリカやイスラエルがロシアを仲介者として認めざるを得ない状況に至れば、アメリカは最終的にウクライナ問題においてもロシアと妥協を図る可能性が高まると指摘している。これには、Newsweekを含むメディアがアメリカ国内の世論を徐々に変えていく役割を果たすことが必要であると述べている。

 「ポチョムキン主義」による誤解とその影響

 コリブコは「ポチョムキン主義(Potemkinism)」という概念を持ち出し、これは「ロシアは反シオニズムであり、イランと協力してパレスチナを軍事的に解放しようとしている」という誤解を意図的に広める行為を指している。AMCの一部では、ロシアが対イスラエル政策で単なる「見せかけの中立」を装っているとする陰謀論的な見解も根強く、これにより多くの人々がロシアの本来の立場を理解していないとしている。コリブコは、ロシアの政策決定は国内外の世論に左右されないため、こうした誤解が影響を及ぼすことはないと述べているが、Newsweekの記事が長期的にこうした誤解を解消するプロセスの第一歩であるとも指摘している。

 米国の政治的変化と中東での協力の可能性

 最後にコリブコは、アメリカ国内の政治状況も徐々に変化しつつあると述べている。多くの議会議員は依然としてイスラエル支持の立場を崩していないが、Newsweekの記事のようなメディア報道が進むことで、最終的には次期アメリカ大統領がロシアとの協力を通じて中東の平和とウクライナ問題の解決を図る道が開かれる可能性もあると示唆している。

【要点】

 1.Newsweekの記事とその意義

 ・Newsweekの記事は、米国と代替メディア(AMC)が広めた「ロシアの反イスラエル的イメージ」を訂正し、中東での仲介役としてのロシアの立場を再評価するもの。
 ・イスラエルの元副国家安全保障顧問オルナ・ミズラヒ氏が、ロシアの中東での役割について肯定的に言及している。

 2.ロシアの中東政策

 ・ロシアは、10月7日に発生したテロ事件を非難し、人質解放を求めている。
 ・イスラエルの「集団的懲罰」を批判しつつも、国連決議に基づくパレスチナの独立を支持。
 ・イスラエルとの制裁に関する協調を維持し、非公式の「非干渉」取引も存在。

 3.プーチンとネタニヤフの個人的関係

 ・両国関係は、プーチンとネタニヤフの「緊密な個人的関係」に基づいて安定している。

 4.「ポチョムキン主義」の誤解

 ・AMCの一部が「ロシアは反シオニズムで、パレスチナ解放を支援している」との誤解を広めている。
 ・コリブコは、Newsweekの記事が長期的にこの誤解を解消することに期待している。

 5.米国の政策への影響

 ・米国内での政治変化により、将来的に米国がロシアを仲介役として認め、中東とウクライナ問題で協力する可能性がある。

【引用・参照・底本】

Newsweek Corrected False Perceptions Of Russian Policy Towards Israel Andrew Korybko's Newsletter 2024.11.02
https://korybko.substack.com/p/newsweek-corrected-false-perceptions?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=151063516&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

ロシアが中東の紛争調停者として関与する可能性2024年11月03日 19:38

Microsoft Designerで作成
【概要】
 
 ロシアは、イスラエルとレバノンのヒズボラ間の戦争停止のために和平仲介役を果たす可能性が取り沙汰されている。イスラエルとヒズボラの間の激しい紛争を終息させるための停戦案が、アモス・ホックスタイン氏とブレット・マクガーク氏(いずれも米国大統領の顧問)の支援を受けて作成されており、ロシアはその和平構築に参加を要請されたとの報道がある。ロシアはウクライナ戦争の最中であるものの、主要な関係者すべてと良好な関係を保っているため、この取り組みが地域の安定に大きく寄与する可能性があると見られている。

 元イスラエル副国家安全保障顧問であるオルナ・ミズラヒ氏は、ロシアの国連安全保障理事会常任理事国としての地位を利用し、停戦決議が必要な場合にロシアの承認を期待していると述べた。また、ミズラヒ氏は、ロシアが現時点で地域問題に関与し、影響力を持ちたいと望んでいると指摘している。

 歴史的に、ソビエト連邦はアラブ諸国を支援し、アメリカが支援するイスラエルとの対立を続けてきた。しかし、1991年にはイスラエルとの関係を再開し、プーチン大統領の下で中東への影響力を再度強化。特に2015年にシリア内戦に軍事介入してからは、イランとシリアでの協力関係を深めてきた。この協力関係は、ロシア軍がウクライナ戦争でもイラン製ドローンを使用している点に反映されている。

 一方で、イスラエルとロシアの関係も複雑である。ロシアはガザやレバノンでのイスラエルの戦時行動を批判しているが、イスラエルのネタニヤフ首相とプーチン大統領の個人的な関係は良好で、両国は頻繁に対話を続けている。これまで、シリアにおけるイスラエルの空爆に対してロシアが反応を抑制しているのは、イスラエル軍への評価が影響しているとミズラヒ氏は分析している。

 現在、中東の焦点はシリアからガザへと移り、さらに最近ではイスラエルがレバノンのヒズボラに対する空爆と地上作戦を実施している。ヒズボラは指導者や装備の損失を被りつつも、再編を図っている。こうした中で、停戦協議が行われ、シリア・レバノン間の国境に外国軍を配置することでヒズボラへの武器流入を防止する案が米国によって草案化されたとされる。

 アメリカン大学ベイルート校のタシジアン氏は、シリアに駐留するロシア軍がヒズボラの活動制限に協力する可能性を指摘する一方、ロシアがヒズボラの完全な弱体化を望んでいないと分析している。ロシアは、ヒズボラやイランがアメリカの影響を抑制する上で有用と考えているが、一方でシリアでの不安定化は避けたいと考えている。

 中東でのロシアの影響力について、元米国務省アナリストのヤクビアン氏は、レバノンでのロシアの影響力は限定的で、シリアほど強力ではないと述べている。ヤクビアン氏によると、レバノンの複雑な宗派間の対立に対応するためには、より大規模な介入が必要であり、現在のロシアにはその能力が欠けている。

 レバノンでは、ロシアはヒズボラを支持するシーア派だけでなく、キリスト教徒コミュニティやその他の重要な政治勢力との関係も構築してきた。これにより、イランが欠いている影響力を一部補っている。しかし、米国は依然としてレバノンの主要な関与者であり、またイランやサウジアラビアも主要な影響力を持っているため、ロシアの和平仲介役としての役割には限界があるとされる。

【詳細】

 ロシアが中東の紛争において和平仲介者としての役割を果たす可能性について報じている。特に、ロシアがイスラエルとレバノンのヒズボラ(Hezbollah)との間の紛争を調停するために役割を果たすことを検討されている点が焦点である。アメリカのアモス・ホッホスタイン(Amos Hochstein)およびブレット・マクガーク(Brett McGurk)といった政府関係者が支持する停戦案が進行中であり、ロシアもこの案に参加する可能性が議論されている。

 背景とロシアの立場

 ロシアはシリア内戦以降、中東での影響力を増大させており、特にシリアにおけるアサド政権への軍事介入を通じて、地域内での存在感を強めた。シリアでのロシアの影響力が、レバノンにおける停戦実現に貢献できる可能性がある。ロシアは、イランとも強固な関係を築いており、イスラエルやヒズボラとも連絡を維持しているため、各関係者の間で独自の立場を保っている。

 停戦の要素と米露の協力

 停戦案には、シリアとレバノンの国境に外国軍を配置し、ヒズボラへの武器供給を制限することが盛り込まれていると報じられている。ロシアの役割が検討される理由の一つは、シリアに駐留するロシア軍がこの地域の安全を監視できる点にある。しかし、この案を実現するためには、アメリカとロシアの協力が重要であり、特に将来のワシントン政権がどのようにモスクワとの関係を整理するかが鍵となる。

 ロシアの外交的影響力の限界

 元米国務省アナリストのモナ・ヤクービアン氏は、ロシアの影響力はシリアに比べてレバノンでは限定的であると指摘している。ロシアは歴史的にシリア政府との関係が強固であり、シリア内戦で大きな役割を果たしたが、レバノンでは宗派ごとの複雑な政治構造があり、影響力を発揮するには困難な側面もある。また、ロシアは以前にもレバノンに対して軍事援助を提案したが、西側の圧力により実現しなかった。これにより、ロシアのレバノンにおける影響力は限られたものに留まっているとされている。

 イランおよびサウジアラビアとの関係

 レバノンにおける主要な影響力は依然としてアメリカ、イラン、そしてサウジアラビアにあると考えられている。イランはシーア派武装組織であるヒズボラを支援し続けており、地域における影響力を維持している。一方で、サウジアラビアはレバノンのスンニ派コミュニティの中で影響力を持っている。ロシアはこうした各国との関係を維持しつつ、必要に応じて停戦仲介に関与する可能性があるとされている。

 中東におけるロシアの戦略的アプローチ

 ロシアは、アラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアと連携し、ダマスカスとの関係改善を図るなど、中東での影響力拡大を模索している。シリアのアサド政権がアラブ連盟に復帰したのも、ロシアが背景で影響力を行使した結果の一例である。しかし、レバノンで同様の成功を収めるにはさらなる困難が予想される。

【要点】

 ・記事の主旨:ロシアが中東の紛争調停者として、イスラエルとレバノンのヒズボラ間の停戦仲介に関与する可能性がある。

 ・米国の動き:アメリカのホッホスタイン氏とマクガーク氏が停戦案を進行中で、ロシアの協力も検討されている。

 ・ロシアの中東での影響力:シリア内戦での軍事介入を通じて、ロシアはシリアおよび中東での影響力を増大させた。

 ・ロシアの立場:イランとも関係が深く、イスラエルやヒズボラとも独自の連絡を保っているため、各関係者に対し中立的な立場を持つ。

 ・停戦案の要素:シリアとレバノン国境に外国軍を配置し、ヒズボラへの武器供給を制限する内容が含まれている。

 ・米露協力の重要性:停戦実現にはアメリカとロシアの協力が必要で、特にワシントン政権の対ロシア政策が鍵となる。

 ・ロシアの影響力の限界:元米国務省アナリストのヤクービアン氏は、ロシアのレバノンでの影響力は限定的であると指摘。

 ・イランとサウジアラビアの影響力:レバノンでは、イランがヒズボラを、サウジアラビアがスンニ派を支援しており、アメリカとともに主な影響力を持つ。

 ・ロシアの戦略的アプローチ:UAEやサウジアラビアと連携し、中東での影響力拡大を狙うが、レバノンでの成功には困難が伴う。

【引用・参照・底本】

At War in Ukraine, Putin Emerges as Potential Peace Broker in Middle East Newsweek 2024.10.31
https://www.newsweek.com/war-ukraine-putin-emerges-potential-peace-broker-middle-east-1977721

宇が合意を破り続ける限り、残る領土が縮小していく2024年11月03日 20:11

Microsoft Designerで作成
【概要】
 
 ロシアのラブロフ外相は、2024年11月2日にモスクワで開催された「ロシアの世界」基金の第16回ロシアの世界総会で、ウクライナの領土問題に関する見解を述べた。彼は、ウクライナ指導部が西側諸国の支援を受けて合意を破り続ける限り、ウクライナに残る領土が縮小していくとの主張を展開した。

 ラブロフ外相は、2014年2月に全ての合意が守られていれば、クリミアは今もウクライナの一部であり続けただろうと述べ、また、2015年2月に採択されたミンスク合意が遵守されていれば、ドンバス地域もウクライナの一部であり続けたはずだと指摘した。さらに、彼は2022年4月にイスタンブールでのロシア・ウクライナ和平交渉の3度目の機会があったことも言及し、当時の合意が重要であったと強調した。

 この発言は、ロシア側が過去の合意を再度強調し、それに従わないウクライナに対して責任を問いかける形となっている。また、ロシアのプーチン大統領も2023年7月にカザフスタンでの上海協力機構首脳サミットで、イスタンブールでの交渉での合意が依然として交渉の基盤となる可能性があると述べ、ロシア側の交渉の意志を示している。

【詳細】

 ラブロフ外相の発言は、ウクライナとの紛争におけるロシアの立場を示す重要なものである。彼はウクライナ指導部が西側諸国からの支援を受けて合意を破り続けることが、ウクライナの領土を縮小させる要因であると指摘した。以下に、彼の発言の背景と要点を詳しく説明する。

 1. 合意の履行と領土の問題

 ラブロフ外相は、ウクライナが合意を遵守していれば、特に以下の二つのケースにおいて、現在の領土問題は異なる結果を迎えていたと主張した。

 ・クリミア問題(2014年): ラブロフは、2014年2月にウクライナでの政変が発生した際、ロシアがクリミアを併合したことを正当化するために、当時の合意が守られていれば、クリミアは今もウクライナの領土であったはずだと述べた。彼は、ウクライナが内部の問題を解決できずに合意を破ったことが、この状況を引き起こしたとする。

 ・ミンスク合意(2015年): また、2015年2月に成立したミンスク合意についても言及し、これが履行されていれば、ドンバス地域(ウクライナ東部の親ロシア派が多い地域)はウクライナの一部として残っていただろうと指摘した。ミンスク合意は、停戦と政治的解決を目指すものであり、双方が合意を遵守しなければ持続的な平和は得られないという見解が示されている。

 2. イスタンブールでの交渉(2022年)

 ラブロフは、2022年4月にイスタンブールで行われたロシア・ウクライナ和平交渉についても言及した。これは、ウクライナ侵攻の初期段階に行われたものであり、双方が停戦に向けた合意に達する可能性があると期待されたが、最終的には合意に至らなかった。ラブロフは、この交渉が「3度目のチャンス」であったとし、ウクライナがその機会を逃したことが、現在の状況を悪化させたと強調した。

 3. プーチン大統領の見解

 さらに、ラブロフの発言は、ロシアのプーチン大統領の言及とも関連している。プーチンは2023年7月、カザフスタンでの上海協力機構(SCO)首脳サミットにおいて、イスタンブールでの合意が依然として「交渉テーブルの上にある」と述べ、今後の交渉において基盤となる可能性があることを示唆した。これは、ロシアが依然として和平交渉に向けた意欲を持っているというメッセージであり、国際的な場におけるロシアの立場を強調するものとなっている。

 4. 西側諸国への指摘

 ラブロフの発言は、ウクライナが西側諸国からの支援を受けていることを批判する意図も含まれている。ロシア側は、西側諸国がウクライナの合意違反を助長しているとの見解を持ち、これが紛争の長期化を招いていると主張している。つまり、ウクライナが西側の影響下で行動する限り、ロシアはその領土を守るための行動を強化し続けるという立場である。

 結論

 ラブロフ外相の発言は、ロシアのウクライナに対する主張の正当性を強調し、合意の履行の重要性を訴えるものである。過去の合意が守られなかったことが、ウクライナの領土問題に直接的な影響を与えているとする彼の見解は、国際的な外交におけるロシアの立場を明確にするものとなっている。

【要点】

 1.発言の背景: ラブロフ外相は、2024年11月2日にモスクワで開催された「ロシアの世界」基金の総会で、ウクライナの領土問題に関する見解を述べた。

 2.合意の履行と領土

 ・クリミア問題(2014年): もし合意が守られていれば、クリミアは今もウクライナの領土であったはず。
 ・ミンスク合意(2015年): これが履行されていれば、ドンバス地域もウクライナの一部であったと主張。

 3.イスタンブールでの交渉(2022年)

 ・2022年4月の和平交渉が「3度目のチャンス」であり、ウクライナがその機会を逃したことで現在の状況が悪化したと指摘。

 4.プーチン大統領の見解

 ・2023年7月に上海協力機構首脳サミットで、イスタンブールでの合意が交渉の基盤となる可能性があると述べた。

 5.西側諸国への批判

 ・ウクライナが西側諸国からの支援を受けて合意を破ることで、ロシアの領土が縮小すると警告。西側の影響がウクライナの行動に影響を与えていると主張。

 6.結論: ラブロフの発言は、過去の合意の重要性を強調し、ロシアの立場を正当化する意図がある。

【引用】

 「ウクライナ紛争を解決する上で原則として重要なのは、現場の現実を認識することである。そして、ウクライナ指導部が西側諸国の支援を受けて合意を次々と破り続ければ続けるほど、ウクライナに残る領土は小さくなる。」

 「ロシアのプーチン大統領は7月、カザフスタンで開かれた上海協力機構(SCO)の首脳サミットで、2022年にイスタンブールで行ったロシア・ウクライナ和平交渉で達成された合意について、依然として「(交渉の)テーブルの上に」にあり、交渉プロセスの土台になりうると述べた。」

【以上、引用蘭のsputnik記事】

【引用・参照・底本】

宇が合意を破り続けば続けるほど、その領土は小さくなる=ラブロフ外相 sputnik 日本 2024.10.31
https://sputniknews.jp/20241102/19275535.html

マイワシ→温暖化→東アジア沿岸→米国西海岸沿岸2024年11月03日 21:11

Microsoft Designerで作成
【概要】
 
 東アジア沿岸に広く分布するマイワシ(Sardinops melanostictus)が、2022年以降米国西海岸沿岸で確認されている。これについて、NHKが米国海洋大気局(NOAA)の調査結果を報じている。調査の背景には、北太平洋の海水温上昇があり、これによってマイワシが冬でも生息できる環境が形成され、太平洋を横断して新たな生息地に到達した可能性が示唆されている。

 具体的には、2022年と2023年に米国西海岸で採取されたマイワシのサンプルの遺伝情報が分析され、東アジア系のマイワシであることが確認された。一方、2013年から2021年のサンプルには該当するマイワシの痕跡は見られなかったことから、この変化は最近の現象と見られている。

 さらに、研究チームは2024年に新たに700サンプルを採取し、米西海岸のカリフォルニアに生息するカリフォルニアマイワシとの相互作用を調査している。現在のところ、東アジアからのマイワシと現地のカリフォルニアマイワシとの交配が可能かどうか、あるいはこれが地元の生態系に及ぼす影響については明らかにされていない。

【詳細】

 東アジア沿岸域に生息するマイワシ(Sardinops melanostictus)が、2022年から米国西海岸で確認されている。この発見は、NOAA(米海洋大気局)が行った調査によって明らかになったもので、気候変動に伴う海水温の上昇がこの移動の主な要因であると考えられている。

 1. マイワシの分布変化の背景

 北太平洋の海水温は過去数十年にわたって上昇しており、東アジア沿岸域に限られていたマイワシが、生息域を北米沿岸にまで広げる要因となったと考えられている。特に冬季の海水温上昇によって、マイワシが北太平洋を横断しやすくなり、カリフォルニア沿岸までたどり着くことが可能になったと見られる。

 2. 調査の詳細と遺伝子分析の結果

 NOAAの調査は、2022年と2023年に米国西海岸沿岸で採取されたマイワシのサンプルに対する遺伝子分析に基づいている。この分析の結果、これらのサンプルが東アジア系のマイワシと一致することが確認された。この発見により、従来は確認されていなかった東アジアからのマイワシが近年米国沿岸に進出していることが明らかとなった。

 一方、2013年から2021年の間に採取された過去のサンプルには、東アジア系のマイワシは含まれていなかったため、2022年以降に生じた変化であると推定されている。こうした分布拡大の現象は、他の水温に敏感な海洋生物にも影響を及ぼしており、温暖化が海洋生態系に与える影響が浮き彫りになっている。

 3. カリフォルニアにおける生態系への影響の可能性

 2024年には、さらに700の新しいサンプルがカリフォルニア沿岸で採取され、東アジアのマイワシが現地のカリフォルニアマイワシ(Sardinops sagax)とどのように相互作用するかが追跡されている。特に注目されているのは、東アジア系マイワシがカリフォルニアマイワシと交配する可能性があるかどうか、またその交配が現地の生態系に及ぼす影響である。

 カリフォルニアマイワシは、現地の食物連鎖において重要な役割を果たしているため、東アジア系マイワシが新たに加わることが餌の競合を引き起こし、他の生物に影響を与える可能性もある。今後の調査では、このような競争や相互作用がどの程度生態系に影響するかが重要な焦点となっている。

 4. 結果の発表と今後の課題

 これらの調査結果は、海洋生態学の専門誌「Molecular Ecology」に掲載されており、研究者らはさらに詳しい調査を行い、東アジア系マイワシがカリフォルニア沿岸の生態系にどのように適応しつつあるのかを解析していく予定である。

【要点】

 1.背景

 ・東アジア沿岸域に生息するマイワシ(Sardinops melanostictus)が、2022年以降、米国西海岸沿岸でも確認された。
 ・北太平洋の海水温上昇が原因で、マイワシの生息域が広がり、太平洋を横断するようになったと考えられている。

 2.NOAAによる調査と遺伝子分析

 ・米海洋大気局(NOAA)が2022年と2023年に米西海岸で採取したサンプルの遺伝子を分析。
 ・遺伝子分析の結果、サンプルが東アジア系のマイワシと一致することが確認された。
 ・2013年から2021年に採取されたサンプルには該当するマイワシが含まれていなかったため、分布変化は2022年以降の現象と推測されている。

 3.カリフォルニア生態系への影響調査

 ・2024年にカリフォルニア沿岸で700の新しいサンプルを採取し、東アジア系マイワシの存在を追跡。
 ・カリフォルニアマイワシ(Sardinops sagax)と東アジア系マイワシが交配可能か、また生態系に与える影響が調査対象となっている。
 ・カリフォルニアマイワシは現地の食物連鎖において重要であるため、東アジア系マイワシの参入が生態系に競合を引き起こす可能性がある。

 4.研究発表と今後の課題

 ・調査結果は「Molecular Ecology」誌に掲載され、今後さらなる詳細な調査が行われる予定。
 ・今後の研究課題は、東アジア系マイワシが現地生態系に適応しつつある影響の解明と、カリフォルニアマイワシとの相互作用である。

【引用・参照・底本】

東アジア沿岸域に分布のマイワシ 米西海岸沿岸での生息が確認される sputnik 日本 2024.11.02
https://sputniknews.jp/20241102/19275410.html